離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「あ……」

 お互いに口を同じようにぽかんと開き、しばし見つめ合う。やがて鞠絵さんの方からこちらに歩み寄ってきた。

「久しぶりね、悠花さん」
「お久しぶりです……」

 彼女と話すのは、未だに緊張する。しかし、鞠絵さんの方はとくに気後れする様子もなく、私の隣にスッと腰を下ろす。

「この後、少し時間あるかしら?」
「えっ?」
「別に、危害を加えたりしないわ。……あの時はどうかしてたの。近くにカフェがあったでしょう? そこで五分でも話ができればいいわ」

 淡々とした調子で言われ、どう答えるべきか迷う。答えが出せないでいるうちに、会計窓口から『財前悠花さん』と呼ばれた。

「じゃあ、病院を出たところで待っているわ」

 私の返事を待たず、鞠絵さんは病院の出口へ向かう。

 断れない状況を作られてしまった……。

 警戒心が高まるものの、逃げ場がない。

 私は会計を済ませた後、念のため鞠絵さんの言っていたカフェの情報を調べて、その場所と現在の状況を珀人さんにメッセージで共有する。

 人目のある飲食店でなにかされる可能性は少ないと思うけれど、前回のように隙を見せてはいけないと自分に言い聞かせつつ、鞠絵さんのもとへ向かった。

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