離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「……個人的に話したのか?」
珀人さんの眼差しが、冷気を纏っている。心の中で毒づいていた内容がバレるはずはないのに、ついぎくりとしてしまった。
「は、はい。偶然お昼が一緒になって」
「どこで?」
「会社に入っているカフェですが……」
「それはおそらく偶然じゃない。二度と真木に隙を見せるな」
「はい……?」
どうしてそんなに責められなくちゃならないんだろう。
珀人さんは食べ始めの頃よりも明らかに仏頂面になっており、普段はとても綺麗に食事をするのに、肉にナイフを入れる所作も荒々しい。
妻に男が近づいたことが気に食わない?
……なんて、彼に限ってそんな嫉妬をするはずがないよね。
自虐的にそう思うと同時に、珀人さんへの不満が一気に溢れそうになる。
彼の言うように私に隙があったのだとしたら、それはあなたのせいではないだろうか。
「おっしゃっている意味がよくわかりませんが、今後真木さんと関わらずに仕事をするのは無理です。彼は今後ディレクターとして、直接私たちの仕事を監督しますから」
負けじとそう言って、彼の方にあったビールの缶を勝手に取り、中身をグラスに注ぐ。珀人さんはナイフとフォークをカチャンと皿に置き、険しい顔で私を見つめた。