離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
さっぱりとした味わいの初鰹や蛤、鯛やホタルイカなど、春らしいネタがたっぷりと載ったひと皿を味わいながら、俺たちは旧友らしく、遠慮のない会話を交わす。
「その〝モラハラ夫〟というのはやめてくれ。悠花だって真木の本性と当時の俺の胸中を知ってからは、あの時のことを責めたりはしないんだから」
「悠花さん、年下なのにしっかりしているよな。本当に愛情深くて素敵な女性なんだから、もう離すなよ」
「わかってる。しかし、いくら素敵だと言われたからってお前にはやらないぞ」
「友だちを信用しろよ……。それに、俺だって心に決めた人がいる」
嫉妬心をむき出しにする俺に対し、瀬戸山は飄々とそう言った。
瀬戸山が女性の影を匂わせるなんて珍しい。
俺よりもずっと器用で女性扱いもうまい彼だが、長い間仕事一辺倒で、恋人がいたという話もあまり聞いたことがなかった。
瀬戸山が心に決めた人というのがどんな女性なのか、思わず興味を惹かれる。
「どんな女性なんだ? もう付き合っているのか?」
「いや、まだだ。俺が社長になってから迎えに行こうと決めているから。でも、向日葵みたいな素敵な女性だよ。同業者なんだ」
俺に軽口を叩く時とは違う、優しげな目をして瀬戸山が言う。こいつにこんな顔をさせるとは……。よほど魅力的な人物らしい。