離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「同業者。花屋ってことか」

 これまで俺が訪れたことのある花屋は、悠花に花束を買う時に寄ったあの一軒だけ。脳裏には自然とあの店の名前が浮かんでいた。

「ああ。美吉ブロッサムって知ってるか? そこの社長で――」
「美吉ブロッサム?」

 瀬戸山が頭の中を覗き見たのかと疑いたくなるほどの偶然に驚き、俺は思わずかぶせ気味に声を上げていた。

 それから瀬戸山に根掘り葉掘り相手の女性について尋ねると、社長の名前が『美吉苑香』だというので、これは偶然で片付けていいのだろうかと、勝手に心臓を高鳴らせる。

 トルコキキョウの花束を包んでくれた、あの女性と下の名前が同じだ。

 同一人物とは限らないが、かなり可能性は高いように思う。

 もしも瀬戸山と彼女がうまくいったら、あの時花束を買った男は妻に離婚されずに済み、子宝にも恵まれて幸せにしていますと報告する日も来るだろうか。

「なんだよ財前、急ににやにやして」
「……いや、ぜひとも彼女とうまくいってほしいと、友人として願っているだけだ」

 この素敵な偶然について、家に帰ったら悠花にも聞かせてやろう。

 彼女が驚く姿を想像すると再び口元が緩み、瀬戸山はずっと気味悪がっていた。

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