離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「悠花」
「なんですか?」
「そんなに酒を飲まなくてはやっていられないほど大変なら、いっそ仕事は辞めたらどうだ? 仕事で疲れているのに、帰ってからこんなに手の込んだ料理を作るのも大変だろう。無理してどちらも頑張らなくていい」
「え……?」

 ……どうしてそうなるの? 私は仕事が好きだし、結婚する時に続けてもいいと言ってくれたのは珀人さんだ。

 家事だって、珀人さんのためならと思えば頑張れたのに……私は、夕食の時にちょっとビールを飲むことも許されないの?

 次々浮かぶ疑問を口には出せないまま彼を見つめていると、珀人さんが続ける。

「秘書や周囲の役員たちからも、『奥様は家庭に集中された方がいいのでは』と時々アドバイスを受ける。お互い仕事をしているのにこうしてきみばかりに家事を任せるのは心苦しいし、将来的に妊娠や出産をすることも考えても今から体調管理をしっかり――」

 彼が話している途中で、私の口からは「ふふっ」という不気味な笑みが漏れた。

 珀人さんんは口を噤み、私に怪訝そうな目を向ける。

「悠花……?」
「ごめんなさい。だって、珀人さんの話があまりに矛盾しているから……」
「矛盾?」

 どうやら彼には心当たりがないらしい。その反応を見て、ああこの人とはもうダメだと、やるせないあきらめが胸を満たしていく。

 妊娠や出産、ですって。へそで茶を沸かすとはこのことだ。結婚してからの一年、私を一度も抱いたことないくせに。

 私は笑顔を消して、正面からまっすぐ彼を見つめた。

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