離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

 カンガルーケアや写真撮影が済むと、一度赤ちゃんを看護師に預け、俺は一度分娩室の外へ出る。

 そして、通話の許された区域に移動するとそれぞれの家族に喜びの報告を入れる。

 それでも持て余す幸福の行き場がなくて、産院の廊下でひとり、静かに温かい涙を流した。


 悠花と相談し、息子は(えにし)と名付けた。

 縁が悠花のお腹に宿ったことが一度は切れかけた俺たちの絆を繋いでくれたきかっけでもあったし、これからの人生で、彼自身がたくさんの素敵な縁に恵まれてほしい。

 夫婦でそんな願いをこめた、大切な名前だ。

 縁は大きな病気をすることもなくすくすくと成長し、一歳になる年に悠花が仕事へ復帰すると、元気に保育園に通い始めた。

「ママ、あぷいするー」

 二歳を過ぎた縁は、悠花が会社で作った幼児用アプリを好んで使うようになった。

 保育園から返って食事や入浴を済ませると、眠る前までの自由時間にリビングでうれしそうにタブレットを覗いている。

 幼い子用なので当然制限時間もついており、十分もすれば【おめめを休めましょう】と、アプリが呼び掛けてくれる。

 妻の仕事だから、あるいは子会社の仕事だからひいき目で見ているわけではないが、実にかわいらしいデザインで、中身もよくできている。

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