離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「珀人さん。――離婚しましょう」
「……離婚？　突然なにを言い出すんだ」
「突然ではありません。以前から薄々、頭をよぎっていました」

　政略結婚だとわかっていて結婚を決めたのは自分の意思だった。

　でもそれは、冷え切った結婚生活でも構わないと思ったからじゃない。たとえ愛し合った夫婦には敵わなくても、私たちなりの温かい結婚生活を築くことができればと、前向きな気持ちでいたのだ。

　だけど、珀人さんの方に、そんな考えは微塵もない。

　結婚生活を続けるうちに段々とそれがわかってきて、今では彼と夫婦であることに意味はあるのだろうかと自分に問うばかりだ。

「俺に一度も相談なく、どうしてそんな……」
「私たち、相談し合えるような関係性でしたか？」

　珀人さんに受け入れてくれる様子がないので、思わずそんな本音が口からこぼれる。

　彼はぐっと黙り込み、気まずそうに私から目を逸らした。

　ほら、やっぱり自覚があるんじゃない……。

「しかし、離婚はしない」
「どうして。そんなに世間体が大事ですか？」
「違う。……きみを失いたくない」

　今度は私が言葉に詰まる番だった。

　どうして今さらそんな切実なセリフ……。いや、騙されちゃダメだ。