離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「失いたくないのは私ではなく、妻帯者というステータスでしょう? それか自分の経歴に傷がつくのが嫌とか?」
「悠花、どうしてそんなにひねくれた考え方をするんだ」
子どもを諭すような言い方をされ、お腹の辺りがカッと熱くなる。
どうせ、妻がヒステリーを起こしただけだと軽く考えているんだろう。でも、私は本気だ。
「……ご自分の胸に聞いてください。私はお風呂に入ってきます」
胸の中で膨れ上がった色々な感情を、一から説明する気力はなかった。
ガタッと席を立ち、彼に背を向けたところで「待て」と呼び止められる。
「食事はどうする」
「後で片づけますから、そのままにしておいてください」
せめて私を心配して引き留めてくれたならよかったのに、食事はどうするって……。
自分が片付けさせられる羽目になったら困るとでも思ったのだろうか。
結局どこまでも彼との会話がかみ合わないまま、私は着替えを取りに寝室へ向かう。
広すぎるその部屋の主役はキングサイズのベッド。今のところ眠るためだけにしか活躍していないが、今後も同じだろう。
いちいちそんなことを考えてはため息をつき、クローゼットを開ける。
洗濯のサイクル的になんとなく予想はしていたが、今日に限って夫婦でお揃いのパジャマが引き出しの一番上で存在感を放っていた。