離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「あの、すみません。私がやると言ったのに」
「手が空いている方がやるのは普通のことだ。もし、まだ食べたかったんなら食事の残りは冷蔵庫に入れてある」
「ありがとうございます。……大丈夫、です」

 至れり尽くせりの状況に面喰らうと同時に、なんだか手持ち無沙汰だ。

 おずおず彼に近づいてそうっと手元を覗く。洗剤の大盤振る舞いは気になるけれど、食器自体はとても綺麗になっているみたいだ。

「あの、水で流す方をやりましょうか?」
「きみは手を出さなくていい。これは、俺がやるべきことだ」
「でも、さっきは手が空いている方がやればいいって」

 私がそう言うと、珀人さんはぴたりと手を留めて一度食器をシンクの中に置いた。それから泡だらけの手を洗い流し、シンクの手前に掛けられたタオルで濡れた手を拭う。

 こちらを向いた彼は、どこか気まずさを漂わせながら私を見つめた。

「……自分の胸に手を当てた結果、これくらいしか思いつかなくて」
「えっ?」
「きみの負担を軽くする方法だ。食洗器を使うことも考えたが、普段触れたことがないから正しく洗える自信がなかった。とりあえず大さじ一杯の洗剤を使ってみたが、少し多すぎたようだな」

 まだ流す前の、モコモコとした泡がついた食器を振り返って珀人さんが苦笑する。

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