離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
珀人さんはどの写真もモデルのように美しい。横に並んだ私は緊張している表情が多いけれど、それでも珀人さんを見つめて幸せそうに笑っている写真もある。
式を挙げたホテルの外観から、広々としたブライズルーム、ドレスが映えるよう下からの角度で撮ってもらった、螺旋階段での一枚。
バージンロードを歩く父と私。祭壇の前で手を差し伸べる王子様のような珀人さん。
私にとってはファーストキスでもあった、誓いのキスの写真……。
羽根が触れるような一瞬の口づけだったけれど、私は今でもあの感触と、自然と涙が浮かんでしまうほどの感動を覚えている。
珀人さんはあの日、花嫁を愛する誠実な新郎を見事に演じていた。だから私も錯覚してしまったのかもしれない。
この先の結婚生活もきっと幸せに違いないなんて、のんきに脳内をお花畑にして、政略結婚であることも忘れて。
自分の馬鹿さ加減を今さら思い知り、目頭が熱くなる。
慌てて上を向いた時には手遅れで、キスシーンを切り取った写真の上に、ぽたりと涙の滴が落ちた。震える唇の隙間から、嗚咽が漏れる。
……もう、珀人さんのご家族に恨まれたっていい。
他人の前でだけ偽物の愛情を見せて、家の中では少しも私を妻として扱ってくれないどころか、私が大切にしている仕事を蔑ろにする人とは、一緒にいられない。