離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「悪いがそれはまた今度にしてもらおう。今は花を……」
『花? ああ、うちの会社になにか依頼したいってことか。本当なら営業を通してほしいところだが、他ならぬお前の頼みなら仕方ない』

 瀬戸山は察しのいい男でそれが役立つ時もあるのだが、口下手な俺が説明する前に勝手に話を進めようとするのはやめてほしい。

「違う。妻に贈る花について相談したいんだ。今、花屋の前にいるんだが、どれを選んだらいいのか見当もつかなくて」

 瀬戸山を遮るように言ったら、思いのほか大きな声が出てしまった。

 それまで花を選んでいた数人の女性客たちが、一斉に俺の方を注目する。その瞳はどれも興味津々、といった感じに輝いており、居たたまれなくなって思わず店に背を向ける。

『なんだ、悠花さんへのプレゼントか。それなら簡単だ』
「簡単? ……適当なことを言ってるんじゃないだろうな」
『花屋の友人を疑うなって。店に並んだ花の中で、お前が〝悠花さんに似ているな〟と思うものを選べばいいんだ』
「悠花に似ている花……」

 スマホを耳にあてたまま、もう一度店先の花を振り返った。

 バケツの中で凛と咲く一つひとつの花をじっくり瞳に映しては、最愛の妻のイメージに重ねていく。

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