離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
『一度これだ、と決めてしまえば、夫婦の中できっとその花は特別なものになる。花に疎いお前のことだから名前は覚えられないかもしれないが、見かけた時には必ず悠花さんを思い浮かべて、安心したり元気をもらえたりする。花を贈られた悠花さんの方も、見るたびにお前を思い出すだろう』
瀬戸山の解説になるほどと思いながら、俺はひとつのバケツの前で視線を止める。
フリルのような花びらが幾重にも重なり合って丸い花の形をつくっている、清楚な白い花。これこそ、悠花のイメージにぴったりではないだろうか。
瀬戸山に聞かせるように、プライスカードに書かれた文字を読み上げる。
「トルコキキョウ……」
『ああ、いいんじゃないか? とても人気の花だし、悠花さんによく似合う』
同じ高校の後輩である悠花とは、瀬戸山も顔見知り。結婚式でも世話になったし、悠花も信頼しているように思う。
そんな彼も推してくれる花なら、間違いはないだろう。
「……わかった。お前を信じてこの花を買う」
『そんなに鬼気迫らなくても。花をもらって喜ばない女性はいないんだから、もっと気楽に買えばいいんだよ』
「悪いがこっちは離婚するかしないかの瀬戸際なんだ。……アドバイスには礼を言う。それじゃ、また」
『え、離婚ってお前――』
瀬戸山がまだなにか言っている声がしたが、一刻も早く悠花に花を届けたくて一方的に通話を終える。
数人いる女性店員の中で責任者と思われるひとりを呼んで、トルコキキョウの花束が欲しいと告げた。