離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
悠花と同じくらいの年だろうか。『かしこまりました』と返事をした彼女は、なぜかとても緊張した様子だった。
しかし、花束を作る技術はさすがで、他の花材をうまく組み合わせたトルコキキョウの花束を手早く作ってくれる。
傍らで別の仕事をしていた店員もその手際に見とれており、『さすが苑香さん』と呟いていた。彼女はきっと、仕事のできるスタッフなのだろう。
仕上がりを確認して会計を済ませ、持ち帰り用のバッグに入れた花束を手渡される。
「奥様のお気持ちが戻ってきますよう、お祈りしています」
やけに切実な声で彼女が言うので、俺はようやく瀬戸山との会話で自分のプライバシーが筒抜けであったことを悟る。
ひと組の夫婦が離婚するか否か、その命運をこの花束が握っていると思ったら、作り手が緊張するのも無理はない。
「ありがとうございます……」
一応感謝は伝えたが、いたたまれずにそそくさと店を出て、待たせていた車に乗り込む。
改めて袋に入った花束を確認すると、気まずい思いをしたことを差しい引いても、やはり見事な仕上がりだった。
花束を渡すくらいで、これまでの自分の行動を許してもらおうなどと思っているわけではない。
しかし、まともに話もできない今の状況を打破するきっかけくらいにはなってほしい。そう願いながら、車窓からの景色を眺めた。