離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

 俺が帰り着いた時、悠花はちょうど入浴中のようだった。キッチンのモニターで給湯器が使用中であるのを確認しながら、買ってきた花束を袋から出して軽く形を整える。

 実は、こうしてプレゼントの類を直接手渡しするのは初めてだ。

 これまでもクリスマスや誕生日にはきちんと悠花に贈り物をしてきたが、わざと俺が自宅にいない時間に荷物が届くよう指定して、品物を受け取った悠花が後で俺に報告し、お礼を伝えてくれる。そんな方法を取ってきた。

 すべては悠花に嫌われたくないが故の行動だったが……一週間前、俺に抱かれながらもなお『珀人さんに愛されたい』と懇願する彼女を見て、それが過ちであったことにようやく気づいたのである。

 だからといって、いきなり愛情表現のうまい男に変身できるわけではない。それでも変わるつもりはあるのだという意思を、この花束で伝えられれば――。

 花束を手に立ち尽くすこと数分。リビングダイニングのドアがガチャっと開き、風呂から上がったらしい悠花がパジャマ姿で部屋に入ってくる。

「……ただいま」

 そっと声をかけると、彼女は俺の姿を見て目を丸くした。

「珀人さん、今日は遅くなるご予定だったんじゃ……?」
「会食の予定がなくなったんだ。仕事もひと区切りついたし、悠花と話したくて急いで帰ってきた。……これ、きみに」

 ゆっくり彼女に歩み寄って、花束を差し出す。

 悠花は理解が追いつかない様子で目を瞬かせながらも、手を出してそれを受け取ってくれた。

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