離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
小柄な彼女が持つと、花束がより大きく見える。顔の辺りでふわりと揺れた大きなトルコキキョウの花は、やっぱり悠花と雰囲気がよく似ていた。
「……急にどうしたんですか?」
悠花が訝し気な目をして俺を見る。俺が花束を贈るなんて初めての行動だから、なにか裏があるのではないかと疑っているようだ。
「別にどうしたというほどでも……ただ、帰りに花屋が目に入って」
愛想なく応える自分に、もうひとりの自分が『違うだろう』と怒っている。
悠花を失いたくないから、離婚したくないから、話し合いをするきっかけづくりにわざわざ望んで花を買いに言ったくせに、なにを言っているのかと。
……わかっている。わかっているが、素直に心の内を見せるのは、俺にとって相当な難題なのだ。
「そ、そうですか……。私はてっきり、瀬戸山さんのアイデアかと思いました」
瀬戸山の名前が出てぎくりとする。あの電話を、悠花が聞いていたはずはないのに。
「……アイデアとは?」
「離婚を考えている妻を引き留めるアイデアって意味です。お花屋さんんの瀬戸山さんなら、そういうアドバイスをしてもおかしくないかなって」
そういうことか……。花屋でスマートに振舞えず、瀬戸山にアドバイスを乞い店員から励まされたあの姿を見られたわけではないとわかり、少々ホッとする。
瀬戸山に手助けしてもらったのは事実だが、花を買おうと思ったのは自分の意思なので、彼の関与については伏せさせてもらおう。