離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「珀人さんに優しくされると……つらいんです。もう、放っておいてください」
絞り出したような声でそう言うと、悠花は逃げるように部屋を後にする。
バタン、と勢いよく扉が閉まる音がして、俺はひとりその場に残される。押しつけられたトルコキキョウの花束を抱いたまま。
「ごめんな……」
形が崩れてしまった花を、指先で整えながら呟く。
簡単に状況が好転する訳はないと理解していたはずなのに、それでも俺は、花束を受け取った悠花が笑顔になってくれるのではないかと、心のどこかで期待していた。
……しかし、甘い考えだった。彼女の心を癒やすには、きっと時間がかかる。そして俺自身も、もっと変わる必要があるだろう。
俺はそれから、家じゅうあちこちの収納を開けて花瓶がないかを探した。
悠花に聞けば花瓶の場所はきっと知っているが、このまま家庭に無関心な夫のままで居たくない。自分の家のどこになにがあるかくらい、自力で覚えなければ。
「……あった」
廊下の収納から適当なガラスの花瓶を見つけた俺は、はさみで花の丈を揃えて花瓶に生け、食卓に飾った。
祖父母の代から引き継がれているアンティーク家具に囲まれたダイニングが、華やかな印象になる。
悠花と暮らす空間を心地よいものにするこうした努力を、これからも地道に続けて行こう。
水を吸って息を吹き返したように見えるトルコキキョウを眺め、俺ひとり決意した。