離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
交差点の信号で一度車が止まると、窓の外にはカフェレストランが見えた。
天気がいいのでテラス席を利用している客も多く、悠花もああいう店が好きだろうかと思いを巡らせる。
俺たちは、結婚する前もした後も、デートらしい外出は一度もしていない。
食事に誘うくらい簡単だろうと自分でも思う。
しかし、そうした夫婦としての幸せを追い求めれば求めるほど、母のように悠花が俺のもとから逃げてしまう確率も上がっていくのではないかと思えて、結局は言い出せないまま。
……悠花はきっと、俺からの誘いを待ってくれていたのに。
思わずため息をついたその時、彼女によく似た人物をテラス席の一角に見つける。
目を凝らすと、どうやら悠花本人のようだった。直後に車が走り出し、彼女と同じテーブルについている人物が一瞬見えた。
あの軽薄そうな風貌――まさか、真木?
「すみません、今通り過ぎたカフェに寄っていただきたい」
ハッキリと確認できたわけではないが、俺は気がついたら運転手にそう告げていた。
「えっ? ええ、かしこまりました」
運転手は軽く驚いたそぶりを見せるが、落ち着いて進路を変更し、カフェに向かってくれる。
真木でなければ安心できるし、真木であったなら一刻も早く悠花から引き離さなければ。
たとえ上司であろうと、昼休憩に部下の時間を拘束していい道理はない。