離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「ちなみに、今日はなにを飲む?」
「珀人さんは運転があるから飲めないですよね? だったら私だけ飲むのも気が引けるので、ノンアルコールでいいです」
「それなら心配いらない。今夜はここへ泊まる」
「そうですか、それなら――って、えっ?」
泊まる? このホテルの客室に?
そんな話は初耳だったので、呆気に取られて目を瞬かせる。
「ここからは大人の部だ、と言っただろう?」
珀人さんはしれっというと、ドリンクメニューを差し出してくる。
大人の部って、てっきりダイニングバーでお酒を飲むことをだけを指しているのだと思っていた。でも、それだけじゃないみたい……。
この先の展開を勝手に妄想して、鼓動が速くなる。私は焦って彼を見つめた。
「きょ、今日のデートは、夫婦の思い出が詰まっている場所を訪れる約束だったはずです。松苑学園やダイニングバーはその条件を満たしていますが、客室は該当しません」
すっかり油断していたので心の準備ができておらず、なんとか逃げられないかと理屈をこねてみる。しかし、珀人さんは少しも動揺するそぶりを見せなかった。
「だから、その思い出をこれから作る」
「えっ……?」
思い出を、作る……?