離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「一般的な夫婦に比べて、俺たちには絶対的にふたりで共に過ごした記憶が少ない。それは主に俺のせいだし、もちろん反省している。しかし、今から過去に戻って過去を改ざんすることはできないだろ? だから、今日は夫婦にゆかりのある場所を訪れるだけではなく、きみとの新しい思い出を重ねたいと思ったんだ。……もちろん悠花の意思は尊重する。でも俺は、朝まできみといたい」
「珀人さん……」

 私が意地悪でリクエストしたデートプランを、そんな風に解釈するなんて。

 思い出がないなら、これから作ればいい。強引な理屈だと思う裏で、その通りだと思う自分もいる。

 これって、珀人さんの策略通りに踊らされているのだろうか。それとも私の中にはやっぱり、彼とやり直したい気持ちが残っている……?

 自分でも自分の気持ちがわからないけれど、今日一日のデートがとても楽しいものだったのは確かで、もうすぐ終わってしまうと思うと胸が苦しくなる。

 できることなら朝まで――珀人さんのそばにいたい。

 悩んで悩んで、それでも残った答えがそれだった。

 だけど素直に口にする勇気がなくて、私は視線を上げて店内を見回し、手を挙げて店のスタッフを呼んだ。

「グリーンアラスカをください」

 珀人さんはその発言に目を丸くしていたけれど、スタッフの前では態度に出さず、同じものをもうひとつと、アラカルトメニューからいくつかの料理を注文する。

 スタッフがテーブルを離れてから、怪訝そうに私を見つめた。

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