離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する

「悠花。自棄になっているわけじゃないよな? 嫌なら嫌だと言っていいんだぞ」
「違います。……ただ、酔いたくなっただけです」

 頬に熱が集まっていくのを感じる。彼にもきっと、顔が赤くなっているのがバレているだろう。

 珀人さんは穴があくほど私をジッと見つめた後、静かに問いかける。

「酒に? それとも俺に?」
「……あなたに、です」

 か細い声になってしまったけれど、彼の目を見つめてしっかりと告げる。薄暗い照明の中で、珀人さんの頬がうっすら赤く染まる。

 自分で聞いておいてあからさまに照れている彼に、胸がキュッと締めつけられた。そんな顔をされたら、余計に帰りたくなくなってしまう。

「お待たせいたしました」

 やがてテーブルに運ばれてきたのは、記憶の中にあるのと同じ澄んだ緑色のカクテル。

 珀人さんが頼んでいたサーモンと秋野菜のカルパッチョ、茄子のパルミジャーナも一緒に届き、テーブルの上が華やかになる。

 こんなに美味しそうなものを前に鬱々するのはもったいない。最後まで、楽しいデートにしよう。

「乾杯、しましょうか」

 私は先にグラスを手に取り、顔の前に掲げた。珀人さんも同じ仕草をして微笑む。

「悠花は飲みすぎに注意な」
「珀人さんが介抱してくださるから大丈夫なんじゃ?」
「それはそうだが、思い出を作ろうと言っているのに、前のように記憶をなくされたら困る」
「確かに。気をつけます」

 クスッと笑った後、彼と目を合わせて「乾杯」と声を重ねる。

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