離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「珀人さん……?」
「夜景はもう十分楽しんだだろう? きみが見るのはこっち」
くいっと顎を引き上げられて、彼の熱い眼差しにとらわれた瞬間、唇に甘い熱が触れる。
学園祭を訪れた時に交わした軽いキスとは明らかに違っていて、一度離れた後もすぐにかぶさる彼の唇からは、欲情交じり吐息が漏れている。
私の体も次第にじりじりと疼き出し、彼の腕の中でもどかしくも体の向きを変えると、彼の背にしがみついてかかとを上げ、自分からもキスを求めた。
「悠花……俺は、どうしてもっと早く……」
切なげな目をしてそう呟いた彼は、言葉を継ぐより先にまた唇を重ね、深く舌を絡めて来る。続きを聞きたくても、息継ぎをする暇もないほどの甘いキスに翻弄され、立っているのがやっとだ。
ひとしきり口づけを交わした後で、珀人さんも私の腰が砕けそうになっているのに気づいたのだろう。軽々と私を抱き上げ、そのままソファの方へ歩みを進めていく。
やわらかな座面に背中からゆっくりと下ろされ、心臓が破裂しそうに暴れているのを感じながら、珀人さんと見つめ合う。
衣擦れの音と共に彼が顔を近づけてきて、目を閉じる。今夜はなにをされてもいいと、すべてを許しそうになっていたその時――。
私たちが立てる音以外は静かだったこの部屋に、軽やかなスマホの着信音が流れ始めた。