離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
【十二月の頭にリリース予定のアプリで致命的なバグが見つかった。そっちが間に合わない代わりに他の新アプリを一本出せと上層部から無理を言われている。めぼしいものを比較検討したけど、一番間に合いそうなのがきみたちの新作だ。スケジュール的にはかなり厳しくなるけど、協力してもらえると助かる。ちなみに、これから会社来れる人いる? 俺も今から向かうところなんだけど】
読み終えた時には、頭の中のスイッチが完全に仕事モードに切り替わっていた。
私たちが『できない』と言えば、他のチームに負担をかけることになるか、あるいは真木さんのことだから、上に責められるのを覚悟で〝どのチームも間に合わなかった〟と正直に言うのかもしれない。
……でも。そんなこと上司に言わせていいの?
彼の人格やプライベートでの素行を全面的に信用したわけではないけれど、少なくとも仕事の上ではこれまで助けられてきた。
今度は、私たちが応える番ではないだろうか。
私はスマホを握りしめたまま立ち上がり、珀人さんに向かって口を開く。
「あの……今の電話、仕事の呼び出しだったんです。後からメッセージも来ていて、これから会社に来れないかと。私、『行ける』と返事をしようと思うんですが……」
「これから? 土曜の夜にずいぶん急だな。なにかトラブルか?」
「はい。実は上層部の意向で――」
話している途中で、再びスマホが鳴る。
表示された名が真木さんだったので、私は迷わず電話に出た。