天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~
「誤解です! そうじゃないんです! シオン様があまりにも美しく、私なんぞが同じベッドを使って良いわけもなく、ただ安全を考慮してくれるというお気遣いの心が尊くてありがたく承りたいと思うのですがそのようなことが私に許されるのかいいや許されまいしかしお気持ちを無下にすることはできるのかそれも恐れ多いそうシオン様は夜の帝王――」
ノンブレスで怒濤のように返事をすると、シオン様は目を見開いて、私に手のひらを向けた。「ストップ」というジェスチャーだ。
「わかった、わかったから。もういい。私は先に眠るから、きちんとベッドに寝るように」
シオン様そう言うと、布団をめくってベッドに入った。
背は私に向けている。
そして、小さく噴き出した。
「……夜の……帝王……」
クスクスと笑う背中が揺れている。
私はハッと我に返った。カーッと顔が熱くなる。
思わず太ももに肘をつき、組み合わせた両手を額につけた。長いため息が出る。
(やってしまった――。オタク表現――)
ズーンと落ち込む私である。シオン様を前にすると平静でいられない自分が恨めしい。
(なんて馬鹿なの。語彙力仕事しろ!! 『夜の帝王』だなんて、ほかに言い様があるでしょう? ほら、月の女神だとか、常闇の光だとか、ニュクスの微笑みだとか――いや、全部ダメだわ)
自分の語彙力に呆れつつ、ソロソロと顔を上げシオン様を盗み見る。
するとシオン様はスヤスヤと眠りについているようだった。