私の婚約者は、嘘ばっかり〜クズだけど優しい彼〜
「…今日はちょっと気合い入れてスープもつけちゃった」

…あっ!
自分で気合い入れてとか言ってしまった。ううん、そんなことないそんなことない。

スープジャー買ったから!買ったから使いたくなっただけ!

「……。」

今日もお弁当を持ってオフィスを出た。大事そうに腕の中、抱えるみたいにしていつもの休憩室へ向かう。

次の日も次の日も、さらに次の日も続いてそれでもめんどうだなんて思わなかった。


楽しかったから。

楽しみだったから。


毎日、心を躍らせて。


きっと浮かれてた、七瀬くんとお弁当を食べるこの時間に。


だから今日だって、そのつもりだった…


「えー、七瀬くんお弁当なの~!?」


もう少しであの休憩室に着く…前に声が聞こえて来た。

「どうりで最近カップ麺食べてるとこ見かけないと思ったんだよね~!」

「急にどうしたの?健康に目覚めた!?」

甲高い女の子の声、それも1人じゃない2人、3人…キャッキャ話す声が聞こえて。

「てゆーか七瀬くんって料理できたの?」

廊下まで響いてる、たぶん私の足音には気付いてない。

「出来ないよ」

私がここにいることなんか…

「じゃあ誰かに作ってもらってるってこと?」

「うん」

「えーっ、それって彼女!?」

ドキッと心臓が疼く、意味なくランチトートを抱きしめてしまった。

ドキドキ音がする。
でもその答えが気になって耳を澄ました。

心臓の音が邪魔をして、よく聞こえなー…


「いや、彼女いないから」


……。

思ったよりハッキリ聞こえた、聞こえてきた。

すーってなんの角もなく聞こえた。


彼女、いないんだ。
そうだね、私も“彼女”じゃないし。


「じゃあ今度私作ってきてもいい?」

誰もいないと思ってた。普段はそんな場所だから、ひときわ目立たないところにある場合だから。


そこは誰もいない誰も来ないー…


「私、料理得意だから!」


私と七瀬くんだけの居場所だと、勝手に思ってた。


あ、霧がかかっていく。
ドキドキしていた胸の音が遠くなって痛みに変わる。


“だから今テンション上がってます”

何を喜んでたんだろう。

私の方がテンション上がちゃってた。

真に受けちゃって…


あんなのサービストークだ。営業トークだよ。

さすが営業部、なんてね。


また恥ずかしい思いをするところだった。
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