冷徹皇子の夜伽番 ──童貞を奪うのは私の役目?──
その時だった。

廊下の奥から足音が近づき、凛とした声が響いた。

「殿下!」

私とミレーヌは慌てて頭を下げた。

「エリシア。ここにいたんだね。」

アルベール皇子は迷いなく私のもとへ歩み寄り、ためらいもなく腕を伸ばした。

「えっ……」

ミレーヌが傍にいるというのに、私はそのまま抱き寄せられる。

殿下の腕の中、心臓が爆発しそうに跳ねた。

「体は大丈夫か? 無理していない?」

至近距離で囁かれたその言葉に、目の奥がじんわり熱くなる。

まさか……こんなに優しい言葉を、人前でかけられるなんて。

「は、はい……大丈夫です。」

震える声で答えると、殿下は満足そうに微笑んだ。

「エリシア。……今夜も夜伽を頼む。」

「えっ……」

その一言に頭が真っ白になる。

まるで当然のように、当たり前のように告げられた言葉。

思わずミレーヌに視線を向けると、彼女は顔を背け、何も聞かなかったふりをしていた。

だが、唇の端がほんのわずかに引きつっているのが分かる。

――殿下は、私を選んでくださった。

その事実だけが、胸の奥で強く燃え上がっていた。
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