無口な人魚姫と粗暴な海賊
 ダリオスは数冊持ってきた絵本を一冊手に取るとパラパラと、ページめくり始めた。


「これならアンタも好きそうだな。」


 壁際の隅に置いてある木製のテーブルの上に、残りの本を乗せる。
本を載せた時に、白地のテーブルクロスからホコリが舞った気がしたが、それには目を伏せる。

 テーブルとセットになっている木製のイスを少し乱暴にパールのいるバスタブの方へと寄せると、ダリオスはドカっと豪快に長い足を組んで腰掛けた。


「文字が読めないアンタの変わりに、俺が読んでやるよ。」


 見えやすいように、ダリオスが本を掲げてくれる。

 そんな器用なこともできるのかと思いながら、パールは期待に目を輝かせながら、バスタブの縁に近寄った。


 ダリオスの心地よい低音が部屋に響く。

 耳にスっと入ってくる声色は、穏やかな海のように柔らかい。


 ダリオスが読んでくれたのは、家族に虐げられていたお姫様が、王子様に見初められ幸せになるという物語だった。

 ダリオス曰く、人間の世界ではありふれた物語らしい。

 しかし、悲恋な物語が愛されている世界で育ったパールにとっては、とても新鮮で温かい気持ちになれる素敵なお話だと感じた。

 
 王子様との出会いのシーンはとても美しく、その挿絵に見入ってしまうほどだ。

 もう一度そのシーンが見たくて、パールがダリオスのマントをちょんちょんと引っ張る。


「ん?どうした?」


 パールは絵本を呼びさしてから、本を乗っけて欲しいと言わんばかりに両手を差し出した。

 その意図に瞬時に気づいたダリオスが、パールの両手に今しがた読み聞かせていた本を乗せる。


「濡らさないようにな。」


 コクリと頷いてから、パールはバスタブから手を出して、先程のページを開く。
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