無口な人魚姫と粗暴な海賊
 そうして、どちらともなく微笑む。

 とても穏やかで優しい時間が流れる。

 こんなにも心が穏やかなことは初めてで、パールは少しだけくすぐったく感じた。


 ミーシャが手をゆっくりと離すのと同時に、パールもミーシャに温められた手を水中に戻す。


 一連のやり取りを腕組みしながら、黙って聞いていたダリオスが、パールに近づいた。


「今、ミーシャが言ったようにこれから、ミーシャはアンタの身の回りの世話をすることになる。
 話したくないなら話さなくていいが、なんかあったらミーシャに伝えろ。コイツはすごい奴だからな。大抵の事は察してくれるだろうし、やってくれる。」

「なんでも仰って下さい。ダリオス様が大切になされているパール様の為ならば、なんでも致します。
 ですが、初対面の信用ならない獣人に、こんなことを言われてもまだパール様も困るでしょう。なので、まずはゆっくりお互いのことを知っていけたらと思います。」


 ミーシャの言葉にパールの大きな目が見開かれる。

 心を優しく溶かすような、丁寧な扱いにパールはただただ呆然とすることしか出来ない。


 だって、初めてだったのだ。


 海では誰もパールに近寄らなかった。

 話しかけてくるような奇特な人物もいなかった。

 心優しい言葉をかけてくれる。そんな人物も当然いなかった。


 だから、戸惑った。

 丁寧に扱ってくれるのは嬉しいはずなのに、初めてのことでどう反応したらいいか分からない。


 ミーシャの目を見ていられなくて、そっと視線を下げる。

 この態度の方がよほど、失礼だ。

 せっかく優しい言葉をかけてくれたのに、傷つけてしまうかもしれない。

 でも、パールはこの場での正解を持ち合わせていなかった。


 すると、俯いたパールの少し湿った頭にぽんっと誰かが手を乗せた。

 大きくて、温かい手。

 もう何度も、撫でられ、わしゃわしゃにされてきた。

 この温もりが誰かなんて見なくても、もうわかるくらいには、パールは心を預けている人物。


「少しずつ慣れていけばいい。」


 何がとは言わない。けれど、何かを察しているような言い方。


相変わらずぶっきらぼうな言葉遣い。


 けれど、いつもより落ち着きのある優しい声に、パールのことを気遣ってくれているのが分かる。

 心を落ち着かせるのは充分な言葉だった。
 

 欲しい時に欲しい言葉をくれる。

 ダリオスは出会った時からそうだった。

 だから、パールも彼と彼が信頼する彼女になら、心を開いても良いのではないかと、ほんの少しだけ思った。
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