夜を繋いで君と行く
* * *

 突然、それでも確かに怜花がぐっと自分に近付いてきたことを感じる。正面から抱きしめたいけれど、大切だと思った人を抱きしめて眠ったことがないから、どこまでやっていいのか分からず動けないでいる。すると微かに怜花が震えているような気がした。揺れや鼻をすする音から察するに、これはおそらく泣いている。

(…一回泣き止んでからは、照れたり笑ったり、ずっとふわふわしてて可愛かったのに。)

 泣いている理由が思いつかなくて、でもこうして自分の胸に縋ってくれたということは、原因は多分自分ではなくて。だとすればそれは、彼女の中で何か気持ちの揺れがあったからなのだろうと結論付ける。何があったのか気になる気持ちは嘘ではないが、急かして話させるのも気が引けた。ただでさえ、今日はたくさん心の内を話させた、半ば無理やり。欠伸が出るほど眠くなったのは、眠れていなかったことと、たくさん泣かせてしまったこと、この二つが主な原因だろう。これ以上、無理をさせたくはなかった。

「怜花。やっぱり俺がもっと近付きたいから抱きしめる。」

 肩より少し下のあたりで、コクと小さく頷く感覚がした。それを同意ととって、怜花の細い体を引き寄せた。部屋着になると余計、自分よりもはるかに頼りない体なのだと感じる。前に見ていた背中よりもずっと、今の方が小さい。弱らせてしまったことが、じくじくと心を蝕んできて痛い。泣いてしまうような何かが何なのかはわからない。それでも出されたシグナルはどんなに小さなものでも受け取りたかった。彼女から近付いてきた理由が、『助けてほしい』でも『傍にいてほしい』でも何でもよかった。ただ、今は安心して眠ってほしい。それだけを思って、力を込めすぎないようにそのまま抱きしめ、目を閉じた。
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