夜を繋いで君と行く
「…満足、した?」
「ん-…してはないけど、でも怜花眠そうだし、これ以上はやんない。」

 怜花は少しだけある距離を埋めるように、ごそごそと布団の中で近付き、律の肩にトンと頭を預けた。

「…おやすみ。」
「おやすみ。…ゆっくり休んで。」

 律の唇が、怜花の頭頂部に落ちた。律の温かい手が頭から緩く離れて、今度は髪が撫でられている。そんな感じがする中で微睡みたいのに、目を閉じてもまだ思考はぐるぐると動き続けている。
 他人がベッドにいることが、昔から特に好きではなかった。他人が特に『彼氏』という名を持つ存在になった途端に、思うがままに欲を吐いていい人に自分がなってしまうことが苦手で、でもそれは上手く伝えられなくて拗れて別れて。それを何度か経験するうちに、自分の彼氏になりたいと申し出る人は、別に自分のことを大切にしたくてそう言っているのではなく、都合よく使いたくてそう言っていたということに気付いた。それからはもう、男というものが自分を『女』として消費したいだけの存在にしか見えなくなってしまった。
 だから、律は最初から不思議な人だった。自分のことを好きなようにする力も、タイミングもあったのにそれを行使することはなかった。今こうして、それぞれの気持ちが互いを向いていることがわかってもなお、怜花の体を不用意に触ることはない。
 当たり前のように与えられた優しさと安心に、目を瞑ると奥から涙がまた込み上げた。今日の涙腺はずっと、壊れっぱなしで使い物にならない。不安があっても涙が出るし、安心しても涙が出る。こんなところで泣いたらきっと、心配させてしまう。ただでさえ、律の中にも不安は残っているのだ。いきなりいなくなるという不安。『私』を不安にさせてしまったらという不安が、律には色濃く刻まれてしまった。

(…ああ、よくない。自分の不甲斐なさにも、涙が出る。…安心もしてるのに。)

 泣いていることに律が気付いてしまったら、寝かせてあげられない。慰めようと、不安を埋めようとしてくれる。込み上げる涙を隠したくて、怜花は律のスウェットにぐっと目元を押し付けた。
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