夜を繋いで君と行く
君と迎える4度目の朝
* * *

 朝先に目覚めたのは怜花だった。背中に片腕が緩く回っていて、顔を少し上げると子供みたいな寝顔にぶつかった。あまりのあどけなさに小さく笑みが零れた。
 昨日真剣な眼差しを見せたり、キスをするために近付いてきたり、それはそれは大人な対応ばかり見せつけてきた人が、こんな子供みたいに可愛く眠っているなんて誰が想像できるだろう。怜花がその寝顔を眺めていると、ゆっくりと律の目が見開かれた。

「…はよ。…眠れた?」
「うん。よく眠れた。…ありがとう。」
「うん。」

 近付いてきた唇をそのまま受け入れ、離れていくと絡み合う視線は気恥ずかしくて、でも嫌ではない。

「…甘ったるいね、空気が。」
「ね。でも…楽しいんだよね、昨日からずっと。ごっこじゃなくて、本物だから。」

 頬に触れた唇が優しい。『本物』だからできることで、確かに関係が変わったことがわかる。昨日の朝はいっそ消えてしまいたいほど苦しくて呼吸すら辛かったのに、今日の朝は違う。優しい温度と微睡みがあって、夢みたいな現実の時間が確かに流れている。

「…こういう、なんだろな…恋人みたいな触れ合いが好きな人だって、知らなかった。」
「ん?」

 怜花の頭を撫でながら、律は半分寝ぼけ眼で問いかける。今までの寝起きの律よりもずっと、あどけなさが残っている気がする。

「…ただ寝るだけで、本当に大丈夫なんだ。」

 少しだけ落ちた沈黙。ふぅと小さくため息をはいてから、律がその先を引き取った。

「…そういうこと?大丈夫に決まってるじゃん。そんな可愛いこと言うと襲っちゃうけど。」
「…朝起きて、普通に私は服を着ていて、毎回それに驚いちゃってた。…律のことを疑ってるみたいで嫌だね。…驚くの、やめたいのに。律は襲ったりなんかしないし、律がしてくれることで嫌なことは、何もないのにね。」

 怜花が言い終わると、律の長い腕が怜花の体を抱きしめ、そのまま布団に引きずり込んだ。腕の力が昨日の夜のように強くて、怜花の肩には律の頭が乗っている。

「…可愛いからね、…可愛いから、大事にしなきゃじゃん。」

 再び深く息が吐かれた。律の心拍はそこまで速まっているようには感じないが、怜花の方は律の声が耳元で響いて心拍が上がる。

「…可愛くて、大事で、壊したくない。…壊れてほしくない。…傷ついてほしくない。これ以上は、ずっと。」

 まるで律の方が傷ついたようだった。触れた手や響く声からも痛みが伝わってくるようにも感じる。
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