夜を繋いで君と行く
「…4度目がちゃんとあるの、…すごい、奇跡みたい。」
「4度目?」

 抱きしめる腕が少しだけ緩んで、視線が交じり合う。不意に向けられた笑顔が泣きそうで、怜花の胸はきゅっと苦しくなった。

「開催されないかもしれないって思ってた。4度目のお泊まり会。」

 こんな顔をさせたかったわけじゃなかった、と今更ながら思う。後悔がどっと押し寄せて、口を開こうとしたその時だった。ベッドサイドに置いていた怜花のスマートフォンが震えた。怜花はパッと体を起こした。着信は上司の八幡からだった。

「仕事の人?こんな朝早く?」
「うん。ちょっと出て…。」
「いいよ、ここで電話して。聞いちゃまずいなら布団潜る。」
「…まずくはないけど、じゃあお言葉に甘えて。」

 怜花は通話ボタンをタップした。八幡から朝7時に電話が来たことなんて、入社してから一度もないように思う。

「おはようございます。一橋です。」
『あ、怜花ちゃん?まだ家出てないわよね?』
「は、はい。まだ家にいます。」
『今日から2日間、休みなさいね、あなた。』
「えっ?」

 突然の八幡の言葉に怜花は驚いて、言葉が続かない。受話器の向こう側では盛大なため息が聞こえた。

『あのねー…明らかな不健康状態でしょ?朝はどうだか知らないけど、ちゃんとしたお弁当作ってたのに突然コンビニおにぎり1個のランチになって、化粧が濃くなって、マスクで隠してたけど、私は飲み物飲むとき、ちゃんとチェックしてましたからね、顔色の悪さ!』

 思いのほか大きい八幡の声が、律にまで聞こえてたらと思うと気が気ではなかった。弱っていた2週間ほどの自分の状態を事細かに聞かれてしまえば、律の心に追い打ちをかけてしまうように思えたからだ。
 そう思っていたのに、律は後ろからそっとそのまま、怜花を抱きしめた。驚いて律の方を向くが、腕の力から察するに離す気はなさそうだった。

「…すみません。」
『ごめんね、もっと早くに話を聞いてあげたかったんだけど、別件でバタついてて後手に回っちゃって。顔色は悪いのに仕事のミスはないから、他の気の利かない男たちは全然気づいてなかったみたいで。でも、休める手はずは整えてあるから、あなたが休みたいって今言ってくれれば、他のことは全部やっておくわよ。』

 八幡の言葉が、じんわりとしみた。律の手が、怜花の空いている方の手を握る。
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