夜を繋いで君と行く
「…いいんですか、そんな。」
『いいに決まってるでしょ。ただでさえ細いのに、あなたこれ以上痩せてどうするの?もしかして、噂の彼氏に痩せろなんて言われてるの?というか、彼氏は一体何してるのよ…もう。』

 突然『彼氏』に話が飛び火し、怜花の心拍数は上がった。

(八幡さん~!多分この人、八幡さんの声拾うために近付いてきてるので全部筒抜けです…!)

「すみません。休みにしてもらってもいいですか?僕が責任をもって、食事と睡眠を提供するので。」
「ちょっと…!?」
『あ、そこにいるのね、例の彼氏!もう、あなた、彼氏なのに彼女が体調悪いの、ずっと放っておいたの!?一体何考えてるの!怜花ちゃんは道具じゃないのよ!』

 まずい展開だった。八幡は頭が切れる。そして、弁も立つ。それに、入社当初から何かと怜花を気にかけてくれる女上司だった。八幡自身が美人で仕事もできるため、怜花の苦労を何も言わずにわかってくれて、それとなく男性トラブルに巻き込まれないように配置してくれたり、巻き込まれかけているときは担当を代わってくれたりする人だった。その八幡の声がとがっている。よほど心配をかけてしまったのだろう。

「怜花、代わって。スピーカーでもいい。」
「ちょっとあの!」

 スッと抜き取られたスマートフォン。スピーカーモードになると、八幡の声が耳元で聞くよりも大きく感じた。

『私の可愛い後輩にひどいことしてくれたじゃない?』
「…返す言葉もありません。すみません。細かいことを説明できなくて申し訳ないのですが、放っておいた事実はあります。重ね重ね、すみません。…休みは何日いただけますか?」
『2日は確保しているわ。でも、もっと取ることも可能よ。』
「そんなに休めません…!」
「ひとまず2日間ですね。わかりました。ご迷惑をおかけしてすみません。全部、僕のせいです。怜花のために休みを融通してくださってありがとうございます。」
「ちょっと、あの、違うんです!私のせいなんです、そもそもは…!」

 怜花の腹部に回っていた律の腕がぐっと、怜花の体を律の胸に引き寄せる。

「…ここから挽回させてもらいたいってことを言ってます。怜花の了承も得ています。すぐに全てを改善できるわけではないですが、でも今の怜花の体調の悪さ…痩せてしまったことについてはなるべく早く解消したいと思っています。あんまり僕は自炊ができないですけど、怜花に教えてもらって一緒に何か作って一緒に食事をします。ゆっくり休めるようにします。あとで僕の電話番号、怜花に送ってもらうので、またもし怜花に変わった様子があったら僕に直接教えてもらってもいいですか?怜花は隠すのが上手だから、今度は失敗したくないので。」

 声優、二階堂律の声ではなく、いつも怜花と一緒に居るときに近い声で、律ははっきりとそう言った。
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