夜を繋いで君と行く
「あ、歩ける!」
「歩けないなんて思ってないよ。はい、動くよー。」
「待って待って!ひゃ…!」

 怜花の手が、咄嗟に律のスウェットの胸元を掴んだ。

「服より俺の方が安定感あるから、首に手、回してくれない?」
「…ち、近くない、顔が…。」
「何言ってんの?キスまでした仲なんですけど?」
「っ…!」

 怜花の顔が真っ赤に染まって、フイっと下を向かれてしまう。しかし、髪の間から見え隠れする耳が赤くて、そんなところにも愛しさが増して、律は微笑んだ。

「…俺がただ嬉しいだけっちゃだけなんだけど、くっついてほしいんだよ。クッションじゃなくて、俺に。」

 怜花の胸元にはクッションがある。クッションがあるままでは確かに律まで腕を伸ばすのは難しいかもしれない。

「クッション下に落としていいから。そしたら腕、届くじゃん?」
「わ…わかったよ…もう。」

 怜花は観念したかのように、クッションを下に落とし、そのままそっと律の首に腕を回した。怜花は、怜花自身のために何かをすることが苦手だが、誰かのためなら頑張れる。そう思ったから『自分が嬉しいだけ』だと言ったのだ。怜花は、多分頑張ってくれる。『律が嬉しくなることをしたい』と思ってくれるだろうから。
 ふわっと香る、怜花の香り。それが鼻をくすぐるだけで、もっと強く抱きしめたい衝動に駆られる。ベッドの中に入ったら、きっとキスは我慢できない。
 照れた耳のままの怜花とは視線が合わない。寝室までそんなに大した距離があるわけでもないので、もうすぐこのまま着いてしまう。

「そんなに照れること?」
「…だって、すごく甘えてるみたいじゃない?子供みたいっていうか…」
「そっか、そういうこと。小さい子みたいに抱っこされてるのが恥ずかしいってことか。…でもごめん、やってみたかったから付き合わせちゃった。」
「やってみたかった?」
「うん。」

 寝室に着いたのと同時にやっと怜花が顔を上げた。
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