夜を繋いで君と行く
「もーちょっとやらせて。なんかめちゃくちゃムカついちゃったから。」
「変なの。何で私じゃなくて二階堂さんがムカつくんですか。」
「…なんでなんだろうね。でもなーんかムカムカする。」
マスクを外した横顔は、今までに見た表情とは違っていた。怒られたことがないからわからないが、楽しそうではないし、余裕のある表情にも見えなかった。楽しくはない気持ちにさせてしまったことが素直に申し訳なくて、怜花は静かに頭を下げた。
「それはごめんなさい。…私は二階堂さんが割って入ってくれて、驚いたんですけど今は割と落ち着いちゃいました。怒りが移っちゃったかな。」
「いいよー移して。」
言い方こそ絶妙に軽かったが、手から伝わる強さと温さは本物だった。
「…てか、何にも傷ついてないみたいな顔しないでよ。」
「え…?」
不意に変わった声のトーンに、怜花は真っ直ぐに二階堂の横顔を見つめた。二階堂は怜花の方を見ないまま、言葉を続ける。
「普通に疲れるしあんなの。嫌な気持ちになるじゃん。なんでもないことみたいに笑わないで。無理して笑ってもらう必要、全然ないから。」
「…だって、何でもない事なんですよあんなの。よくあることで、…勘違いさせる私が悪い、みたいな流れになるものなんです。」
「いやいや。明らかに嫌がってたからね、怜花ちゃん。好きでもない男に触られんのって、普通に嫌だろうし、何でもないことじゃなくない?まぁそれを言ったら俺が手を離さないことも、嫌なことっちゃ嫌なことか。」
そんなことを言うくせに、手を離す雰囲気はない。ただ、同じ『男』という生き物の手なのに何かが違くて、二階堂のものはさっき感じたほど嫌ではない。それに、どうしてあの人が気付けないものを、この人は気付かないことの方が変だとでも言うように気付いてしまうのだろう。思考がぐるぐる回って、揺れる。手を振り払うのがいいのか、なんでもないと突っぱねればいいのか、それとも本音を溢してしまうのがいいのか。頭がパンクしかけて、思考を放棄したくて口を開いたら、思ったよりも大きな声が出た。
「はぁーーーもう二階堂さんってそこが嫌!」
「ええー!ここで救世主にダメ出し!?」
「…自分で救世主とか言うし。というか、いいんですよ、気付かなくて。いろんなことに気付きすぎです。本当は助けなくても良かったんですよ。あんなの慣れっこだし、適当にどうとでもなりました。彼女〜とか言ったから、明日会社でどうなってるかわかんないですけど。」
『助けてくれてありがとうございました』を先に言うべきだと頭ではわかっているのに、口をついて出てくるのは可愛げのない言葉だった。だが、それも反射のようなもので、可愛くあってはいけないと思う気持ちが常にある。何にも動じず、誰にも迎合せず、距離を取って、勘違いをしてもさせてもいけない。人間関係はそうでなくてはならなくて、怜花が余計なことをすればすぐにこじれてしまう。特に異性関係は慎重に。それはこの顔に生まれてしまったのだからもはや仕方のないことなのだろう。可愛い、綺麗はもしかしたら女の子の憧れなのかもしれない。だが、そのせいでこんなにも色々なことに気を配って、慎重に生きている。誰を恨むわけでもないけれど、得することの方が少ない人生だと、改めて思う。
「変なの。何で私じゃなくて二階堂さんがムカつくんですか。」
「…なんでなんだろうね。でもなーんかムカムカする。」
マスクを外した横顔は、今までに見た表情とは違っていた。怒られたことがないからわからないが、楽しそうではないし、余裕のある表情にも見えなかった。楽しくはない気持ちにさせてしまったことが素直に申し訳なくて、怜花は静かに頭を下げた。
「それはごめんなさい。…私は二階堂さんが割って入ってくれて、驚いたんですけど今は割と落ち着いちゃいました。怒りが移っちゃったかな。」
「いいよー移して。」
言い方こそ絶妙に軽かったが、手から伝わる強さと温さは本物だった。
「…てか、何にも傷ついてないみたいな顔しないでよ。」
「え…?」
不意に変わった声のトーンに、怜花は真っ直ぐに二階堂の横顔を見つめた。二階堂は怜花の方を見ないまま、言葉を続ける。
「普通に疲れるしあんなの。嫌な気持ちになるじゃん。なんでもないことみたいに笑わないで。無理して笑ってもらう必要、全然ないから。」
「…だって、何でもない事なんですよあんなの。よくあることで、…勘違いさせる私が悪い、みたいな流れになるものなんです。」
「いやいや。明らかに嫌がってたからね、怜花ちゃん。好きでもない男に触られんのって、普通に嫌だろうし、何でもないことじゃなくない?まぁそれを言ったら俺が手を離さないことも、嫌なことっちゃ嫌なことか。」
そんなことを言うくせに、手を離す雰囲気はない。ただ、同じ『男』という生き物の手なのに何かが違くて、二階堂のものはさっき感じたほど嫌ではない。それに、どうしてあの人が気付けないものを、この人は気付かないことの方が変だとでも言うように気付いてしまうのだろう。思考がぐるぐる回って、揺れる。手を振り払うのがいいのか、なんでもないと突っぱねればいいのか、それとも本音を溢してしまうのがいいのか。頭がパンクしかけて、思考を放棄したくて口を開いたら、思ったよりも大きな声が出た。
「はぁーーーもう二階堂さんってそこが嫌!」
「ええー!ここで救世主にダメ出し!?」
「…自分で救世主とか言うし。というか、いいんですよ、気付かなくて。いろんなことに気付きすぎです。本当は助けなくても良かったんですよ。あんなの慣れっこだし、適当にどうとでもなりました。彼女〜とか言ったから、明日会社でどうなってるかわかんないですけど。」
『助けてくれてありがとうございました』を先に言うべきだと頭ではわかっているのに、口をついて出てくるのは可愛げのない言葉だった。だが、それも反射のようなもので、可愛くあってはいけないと思う気持ちが常にある。何にも動じず、誰にも迎合せず、距離を取って、勘違いをしてもさせてもいけない。人間関係はそうでなくてはならなくて、怜花が余計なことをすればすぐにこじれてしまう。特に異性関係は慎重に。それはこの顔に生まれてしまったのだからもはや仕方のないことなのだろう。可愛い、綺麗はもしかしたら女の子の憧れなのかもしれない。だが、そのせいでこんなにも色々なことに気を配って、慎重に生きている。誰を恨むわけでもないけれど、得することの方が少ない人生だと、改めて思う。