夜を繋いで君と行く
日常の中の非日常
* * *

 昼のデスクで、作ってきたお弁当をつまんでいると、怜花のスマートフォンが震えた。出てきた名前のせいで、昨日のことは夢ではなかったことが証明されてしまった。

『おはよ。ちゃんと寝れた?今日は夕方で仕事終わるから迎えに行ける。仕事って何時に終わるの?』

 結局家まで送ることを諦めなかった二階堂にそのまま押され、挙句の果てに連絡先まで交換することになり、そして今だ。

(…マメすぎない…?なんか、みんなで話していた日の印象と違いすぎるんだけど…。)

 集団の中の二階堂は、ほどよく喋って、周りに気を配って会話を回す人だった。静かな印象はあまりない。しかし、一対一の二階堂はそれなりに喋っていたがどちらかと言えば『静』の印象が強まった。明るい気さくさは少し薄まって、自分にも似た『独り』を感じる。
 そんなことを考えながらつい開けてしまったLINEの画面。ついてしまった既読に少しため息をつく。どう考えたって、考える方向性を変えたって、やりすぎだと思う。『仮彼氏』は普通、ここまでやらない。

『6時に終わります。でも昨日の今日ですし、そこまで頻繁じゃなくても大丈夫ですよ?』
『ご飯食べるの、ちょっと付き合ってほしくてさ。俺にとってもメリットがあれば、気にしないで済むでしょ?』

 抜け目のない返事に、怜花は苦笑した。怜花としてはしばらくの間、彼氏と呼べる人がいれば職場の勘違い男を黙らせることができる。その見返りとして二階堂が要求することに応えなくては等しくない。そう考えるであろう怜花の思考をしっかりと読んでいる。

『二階堂さんの方が上手ですね、何もかも。わかりました。どこに行けばいいですか?』
『迎えに行くって。6時には会社前にいるから。もし残業になりそうなら連絡して。』
『わかりました。』

 可愛げのない文面だなと我ながら思う。スタンプやら絵文字やらを使って可愛くすることだってできるのに、二階堂が絵文字もスタンプも使わないものだから、つられてそのままで返してしまった。しかし正直その方が楽ではあるので、そのままでいいかと結論付けて、怜花はスマートフォンを裏返した。
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