夜を繋いで君と行く
* * *
「お疲れ様。」
「…お疲れ様です。」
マスクに伊達メガネという出で立ちでもさすがに二階堂だとはすぐにわかった。怜花が傍によると二階堂の手は迷わず怜花の手を取った。
「…あの。」
「ん?」
「歴代の彼女とも手は必ず繋いだんですか?」
「…その、歴代の彼女って言うのやめない?」
「百戦錬磨感を出したくて。」
「百戦錬磨じゃないんだってば。」
「そうは思えないですからね、今のところ。それで、どうだったんですか?」
手を繋ぎながらする話ではきっとない。それでも、このくらいの話が丁度いい。深入りさせないし、しない。でも、一緒に過ごさなくてはならないのならば、その空気を悪くしたいわけじゃない。
「手は必ず繋いだわけじゃないよ。ていうか、繋いでないかも。自分からは。」
「…うわ、モテ男の発言じゃないですか。」
「そうだね、確かに。ここだけ聞いたら嫌なやつかも。怜花ちゃんは?歴代の彼氏と手は繋いだの?」
「……。」
歴代の彼氏にいい思い出は何一つない。最後の歴代の彼氏はそれこそ本当に二階堂同様、5、6年前かもしれない。顔も名前も思い浮かぶけれども、それと同時に嫌だったことも辛かったことも思い出されて、咄嗟に上手い返しが思い浮かばなかった。それを察したのか、手が少しだけ強く握られる。力加減が変わったことに反応して怜花が二階堂を見上げると、二階堂は怜花の方を見ずに口を開いた。
「ごめん。答えにくいこと聞いた?言いたくないことは言わなくていいし、聞かれたくなかったことには答えなくていい。俺もそうするし。だからといって、怜花ちゃんに何も質問するなとは言わない。むしろ聞いてよ。多分大体、答えられるからさ。」
やはりこの人は、引くのが早いのだ。怜花の異変を察知して、気まずくならないようにするための一手を打つまでが早い。この人はきっと、思っている以上に繊細なのだという確信を強めて、怜花は手を握り返した。
「お疲れ様。」
「…お疲れ様です。」
マスクに伊達メガネという出で立ちでもさすがに二階堂だとはすぐにわかった。怜花が傍によると二階堂の手は迷わず怜花の手を取った。
「…あの。」
「ん?」
「歴代の彼女とも手は必ず繋いだんですか?」
「…その、歴代の彼女って言うのやめない?」
「百戦錬磨感を出したくて。」
「百戦錬磨じゃないんだってば。」
「そうは思えないですからね、今のところ。それで、どうだったんですか?」
手を繋ぎながらする話ではきっとない。それでも、このくらいの話が丁度いい。深入りさせないし、しない。でも、一緒に過ごさなくてはならないのならば、その空気を悪くしたいわけじゃない。
「手は必ず繋いだわけじゃないよ。ていうか、繋いでないかも。自分からは。」
「…うわ、モテ男の発言じゃないですか。」
「そうだね、確かに。ここだけ聞いたら嫌なやつかも。怜花ちゃんは?歴代の彼氏と手は繋いだの?」
「……。」
歴代の彼氏にいい思い出は何一つない。最後の歴代の彼氏はそれこそ本当に二階堂同様、5、6年前かもしれない。顔も名前も思い浮かぶけれども、それと同時に嫌だったことも辛かったことも思い出されて、咄嗟に上手い返しが思い浮かばなかった。それを察したのか、手が少しだけ強く握られる。力加減が変わったことに反応して怜花が二階堂を見上げると、二階堂は怜花の方を見ずに口を開いた。
「ごめん。答えにくいこと聞いた?言いたくないことは言わなくていいし、聞かれたくなかったことには答えなくていい。俺もそうするし。だからといって、怜花ちゃんに何も質問するなとは言わない。むしろ聞いてよ。多分大体、答えられるからさ。」
やはりこの人は、引くのが早いのだ。怜花の異変を察知して、気まずくならないようにするための一手を打つまでが早い。この人はきっと、思っている以上に繊細なのだという確信を強めて、怜花は手を握り返した。