夜を繋いで君と行く
「…特別に気を遣ってるつもりもなくて、…オートなんだよね、どっちかっていうと。」
「わかりますけどね。とりあえず、本当に悪いことしたときだけにしてください、謝るのは。」
「わかった。気をつけるね。」

 二階堂の視線が担々麺に戻る。怜花も自分の麺に集中することにした。ズズっとすすっては噛んで、ほどよい辛さが食欲を刺激して、夜は食べないことの多い怜花でも1人前は軽くぺろっとたいらげた。二階堂は麺を大盛にしていたが、怜花よりも先に食べ終わっていた。

「昨日さ、怜花ちゃん、俺にいろんなことに気付きすぎって言ったけど。」
「はい。」
「そんなの、怜花ちゃんも同じじゃない?だから気付くんでしょ、俺がどう疲れるかも。」

 きっとそういうことだ。性別は違えど、立たされる側は同じだからこそわかる。見てくれが良くて気が利いて、それなりに求められる。その求めるというのは純粋さからくるものではなく、消費したいから求められるだけだと知っている。
 怜花はテーブルに片肘をついて、そこに顎を乗せた。

「…ってことになりますよね。私も今考えてみましたけど、結局同族なんですよね、私たち。顔で求められて、顔に集まってくる人をそれなりにいなして生きてる。」
「調子乗んなよその程度の顔でって言われるかもだけど、でもまぁ実際そうなんだろうね。この程度でもイケメンだーって言われて、イケメン声優とかいう鬱陶しい肩書つけられて雑誌にも出るんだから、自分がどう思っているかはさておき、世間一般ではそうってことで。」

 二階堂の言葉に、怜花もふぅと小さくため息をつきながら口元を緩めた。

「大丈夫ですよ、二階堂さん。ちゃんと昨日からイケメンっぽいことしかしてないですから。ピンチのアラサーを助けて、恋愛ごっこに付き合って、こうやって愚痴も聞いてます。完璧なイケメンです!自信もって!」
「うわ~なに心にもないこと言ってさ~。」
「心にもなくはないですよ?」
「ほんとかなぁ~?でもま、楽しいからいっか。気付きすぎってのはお互い様だから、そこを責めるのはなしにしよ。気になったことは話す。言いたくなかったら質問には答えなくていい。あと、なんかルールある?」
「今、ルールを決めてたんでしたっけ?」
「ううん。ただパッと思い返しただけ。でも追加ルールあったら受け付けるよ。何かある?」

 思い切りマイペースな二階堂に気が抜けて、怜花は近くにあった水を飲み干してはぁーと長く息をはいた。
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