夜を繋いで君と行く
「笹塚さんだったんですね、お目当ての声優さんは。」
「知ってる?」
「知ってるも何も、大御所じゃないですか。吹き替え作品も多いから地上波でも聞くし、そもそも昔のアニメから今に至るまで、出演数だってかなりありますし、どこかしらで出会いませんか、笹塚さんの声には。」
「そうだね。笹塚さんは、うちの事務所の社長でさ。若くて粗削りで危なっかしかった俺の面倒を見てくれた恩人でもある。」
「そういう繋がりでしたか…なるほど。」
怜花はまた鼻をすすった。一度泣くとなかなかいつも通りに戻れないので、現実でのトラブルなどが起きても普段は泣かない。ただ映像作品にはめっぽう弱く、一人で勝手に感情を寄せて静かに泣くことが多かった。1人なら泣いてもいいし、泣ける。
「…落ち着いた?」
「…泣いた後回復するのに時間がかかるので、あんまりこっち見ないでくださいね。」
「え、なんで?」
「回復していない状態を人に見せるのが苦手…なので。」
「彼氏でも?」
「見せてもいいって思えた彼氏はいません!」
「そっか。わかった。じゃあなるべく見ないようにします。怜花ちゃんの方を向いてもよくなったら教えて。」
「…わかりました。」
早く目を冷やしたい。明日が休みで良かった。腫れるのは確実だが、明日は誰にも会う予定がない。明日はというか、里依と会わない限りは予定なんてないのだが。
「笹塚さんの話、してもいい?」
「はい。」
二階堂は律儀にも前を見続けたまま話している。普段は怜花の方に顔を向けて話すため、声の向きがいつもと違って少し遠く聞こえる。
「笹塚さんにも奥さんいてさ、でも二人には子供はいなくて。だから若手声優のことを夫婦でめちゃくちゃ可愛がってくれるんだよね。特に俺は…贔屓とかではなくてただ単純に、帰る場所がなさそうに見えたって言われたんだけど、そういうのもあって、よく家に呼ばれて食事出してもらったり、泊まらせてもらったり。売れる前の金なかった頃はほとんど食べさせてもらってたかも。命を繋ぐって意味でも本当に、真の恩人。」
声優になりたい人は増えても、作られる作品の量が増えたわけではない。声優で食べていける人は一握りだと聞いたことがある。厳しい世界に身を置いているということを改めて感じ、怜花はまじまじと二階堂の横顔を見つめた。
「知ってる?」
「知ってるも何も、大御所じゃないですか。吹き替え作品も多いから地上波でも聞くし、そもそも昔のアニメから今に至るまで、出演数だってかなりありますし、どこかしらで出会いませんか、笹塚さんの声には。」
「そうだね。笹塚さんは、うちの事務所の社長でさ。若くて粗削りで危なっかしかった俺の面倒を見てくれた恩人でもある。」
「そういう繋がりでしたか…なるほど。」
怜花はまた鼻をすすった。一度泣くとなかなかいつも通りに戻れないので、現実でのトラブルなどが起きても普段は泣かない。ただ映像作品にはめっぽう弱く、一人で勝手に感情を寄せて静かに泣くことが多かった。1人なら泣いてもいいし、泣ける。
「…落ち着いた?」
「…泣いた後回復するのに時間がかかるので、あんまりこっち見ないでくださいね。」
「え、なんで?」
「回復していない状態を人に見せるのが苦手…なので。」
「彼氏でも?」
「見せてもいいって思えた彼氏はいません!」
「そっか。わかった。じゃあなるべく見ないようにします。怜花ちゃんの方を向いてもよくなったら教えて。」
「…わかりました。」
早く目を冷やしたい。明日が休みで良かった。腫れるのは確実だが、明日は誰にも会う予定がない。明日はというか、里依と会わない限りは予定なんてないのだが。
「笹塚さんの話、してもいい?」
「はい。」
二階堂は律儀にも前を見続けたまま話している。普段は怜花の方に顔を向けて話すため、声の向きがいつもと違って少し遠く聞こえる。
「笹塚さんにも奥さんいてさ、でも二人には子供はいなくて。だから若手声優のことを夫婦でめちゃくちゃ可愛がってくれるんだよね。特に俺は…贔屓とかではなくてただ単純に、帰る場所がなさそうに見えたって言われたんだけど、そういうのもあって、よく家に呼ばれて食事出してもらったり、泊まらせてもらったり。売れる前の金なかった頃はほとんど食べさせてもらってたかも。命を繋ぐって意味でも本当に、真の恩人。」
声優になりたい人は増えても、作られる作品の量が増えたわけではない。声優で食べていける人は一握りだと聞いたことがある。厳しい世界に身を置いているということを改めて感じ、怜花はまじまじと二階堂の横顔を見つめた。