夜を繋いで君と行く
「もういいの?怜花ちゃんの方見て話しても。」
ふと、二階堂と目が合った。怜花はハッとして目を逸らす。
「だ、だめです!」
「視線感じたのになー。」
油断してはならないことを思い出し、怜花は迂闊だった自分の行動を恥じた。二階堂は様々な点で鋭いのだ。
「まぁいいや。それでさ、その笹塚さんが最後の仕事に選んだのが今日の映画だったってわけ。」
「え、最後?」
「うん。あ、病気とかそういうのではなくて、元気なんだって。俺も最後にするって言われて問い詰めたからさ。最後って言われるとびっくりするじゃん?」
「はい。」
「ただ、会社のことと自分が出演することと、色々やるには体力が足りないし、自分が抜ければそこに穴ができて次の雇用が生まれるってことで、引き際を考えてたみたい。それで、ずっと声を担当してきた俳優の作品を最後にすることにしたんだって。笹塚さんたちが認知症ではないけど、起こるかもしれないことだろって笑って言ってて、起こるかもしれない未来と、子供がいないという現実と、そういうのも今の自分にぴったりで、これが終わりだったら何の後悔もないとも話してくれてさ。」
「…大人ですね、考え方が。…なんていうか、大人ですけど…その、かっこいい大人というか。」
「ね。でもさ、俺はまだまだ笹塚さんの背中を追いかけていたかったんだよね。しかもさ、笹塚さんが声当ててた今日の俳優の後釜に俺を推薦してくれて、オーディションしたら受かっちゃって。」
「えっ、それはすごいじゃないですか!」
また怜花が顔を上げると、二階堂と目が合う。二階堂は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにニッと口角を上げて笑った。
「うん、結構すごいこと。大きい仕事だしね。でも、背中が大きすぎて、やっぱちょっと怖いなーって思って、今日は怜花ちゃんを借りて、笹塚さんの声を聴きに来た。人の心を動かす声を、ちゃんと聴けた気がする。…付き合ってくれてありがとね。」
「…私は泣き喚いただけです。」
「静かに泣いてたよね。あまりにも静かに泣くから、凝視しちゃったよ。」
「み、見てたんですか!?」
「そりゃ見ちゃうよ。人の心が動いた瞬間だからね。」
二階堂の視線が怜花から外れて、夜の空に移っていった。ふぅと長く吐かれた息に、二階堂のプレッシャーが滲んでいるように見えて、怜花は繋いでいない方の自分の手をぐっと握りしめた。
ふと、二階堂と目が合った。怜花はハッとして目を逸らす。
「だ、だめです!」
「視線感じたのになー。」
油断してはならないことを思い出し、怜花は迂闊だった自分の行動を恥じた。二階堂は様々な点で鋭いのだ。
「まぁいいや。それでさ、その笹塚さんが最後の仕事に選んだのが今日の映画だったってわけ。」
「え、最後?」
「うん。あ、病気とかそういうのではなくて、元気なんだって。俺も最後にするって言われて問い詰めたからさ。最後って言われるとびっくりするじゃん?」
「はい。」
「ただ、会社のことと自分が出演することと、色々やるには体力が足りないし、自分が抜ければそこに穴ができて次の雇用が生まれるってことで、引き際を考えてたみたい。それで、ずっと声を担当してきた俳優の作品を最後にすることにしたんだって。笹塚さんたちが認知症ではないけど、起こるかもしれないことだろって笑って言ってて、起こるかもしれない未来と、子供がいないという現実と、そういうのも今の自分にぴったりで、これが終わりだったら何の後悔もないとも話してくれてさ。」
「…大人ですね、考え方が。…なんていうか、大人ですけど…その、かっこいい大人というか。」
「ね。でもさ、俺はまだまだ笹塚さんの背中を追いかけていたかったんだよね。しかもさ、笹塚さんが声当ててた今日の俳優の後釜に俺を推薦してくれて、オーディションしたら受かっちゃって。」
「えっ、それはすごいじゃないですか!」
また怜花が顔を上げると、二階堂と目が合う。二階堂は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにニッと口角を上げて笑った。
「うん、結構すごいこと。大きい仕事だしね。でも、背中が大きすぎて、やっぱちょっと怖いなーって思って、今日は怜花ちゃんを借りて、笹塚さんの声を聴きに来た。人の心を動かす声を、ちゃんと聴けた気がする。…付き合ってくれてありがとね。」
「…私は泣き喚いただけです。」
「静かに泣いてたよね。あまりにも静かに泣くから、凝視しちゃったよ。」
「み、見てたんですか!?」
「そりゃ見ちゃうよ。人の心が動いた瞬間だからね。」
二階堂の視線が怜花から外れて、夜の空に移っていった。ふぅと長く吐かれた息に、二階堂のプレッシャーが滲んでいるように見えて、怜花は繋いでいない方の自分の手をぐっと握りしめた。