夜を繋いで君と行く
* * *

「あの、さっき通った道の途中に公園あったじゃないですか。そこで待っててもらっていいですか?」
「なんで?」

 家が見えてきたところで、怜花は立ち止まった。手を繋いでいるから、二階堂も必然的に立ち止まることになる。

「…二階堂さんが普通の人だったらどうぞちょっとあがって待っててくださいって言うんですけどね、どこで誰に見られるかわからないので。私の家に入ったのが撮られたらまずいので、女の家にあがったという決定打は絶対に撮らせないための対策です。」
「…声優じゃなかったら家あがれたんだ、俺。ていうか、声優じゃない人だったら男でもあげてるとかはないよね?」

 急に話の方向が変わって、怜花はパッと二階堂の方を見上げた。問い詰めるかのようにやや尖った声が届いて、少しだけ戸惑う。

「…急に機嫌、悪くなりました?」
「機嫌は悪くないけど、心配になったの。」
「心配?」
「男嫌いって言ってたからないよなーとは思いつつ、可愛いから心配じゃん。会社にも変なやついるみたいだし。」

 二階堂の口から出る『可愛い』の言葉がまた怜花の心に降ってくる。可愛いのは自分じゃない。そう思うのに、その言葉の響き自体がなかなか消えてはくれない。

「…あげるわけないです。そもそも、家まで送ってもらうことも基本してないです。」
「ならいい。でも俺が送れない日は気をつけてね、ちゃんと。」
「わかってます。とりあえず公園にいてください。今日は二階堂さんにお土産…とまでは言えないけど、そういう類のものがありますから。」
「わーまじか。なんだろ。楽しみ。んじゃ、待ってんね。」

 軽い足取りの二階堂の背を少しだけ見送って、少し急いで玄関のドアを開けた。電気をつけて冷蔵庫にまっすぐ向かい、テーブルの上に用意してあった保冷バッグに取り出したタッパーを3つ入れる。

(…こんなのじゃ、何の足しにもならないというか、二階堂さんにしてもらってることとか払わせてるもののに全然及ばないけど。)

 毎日のように外食するのはどうなんだという疑問と、ちょっとしたお節介心で用意したものを渡す。もしこれが二階堂に気に入ってもらえたなら継続しやすいと思って考えた策だった。送ってもらうことから逃げられないのであれば、そこで返せるものは返していきたい。これ以上、貰いすぎてしまう前に。
< 32 / 125 >

この作品をシェア

pagetop