夜を繋いで君と行く
「…こんなにって言うのは、あの、どちらかといえば私のセリフなんですよね。」
「どういうこと?」
「今のところ、私食事も奢ってもらいっぱなしで、映画代もポップコーン代も出してません。それに加えて今週はほぼ毎日と言っても過言ではないくらいの送迎付き。金額的には全然及んでませんが…でもこういう形なら食べてなくなるし、送るのは断ってもやめないんでしょうからその時にこうやって渡すの、続けられるしでまぁ、…私にもできる返し方かなって。…あの、素人が作ったもの食べれないタイプとかなら返却してください。それで悪い気は別にしませんので。」

 途中で遮られることもなかったため、怜花はそのまま言い切った。静かに聞いていた二階堂は怜花から受け取った保冷バックにタッパーをしまい、チャックを閉めるとそれを大事そうに胸に抱えた。

「…絶対返さない。全部ありがたく食べる。…ありがとう。」

 静かな夜の公園で、ただ二階堂の声が響いた。いつもの軽い『ありがと』ではなく、はっきりと最後まで聞こえた『ありがとう』に、怜花は目を丸くした。そういう『ありがとう』を言うこともあるのだと、初めて知った。

「…あの、お口に合わなかったら無理しないでくださいね、本当に。あと土日過ぎたら捨ててください、食べ終わらなかった場合。」
「今日食べるから捨てない。」
「今日!?」
「うん。今日は一緒に食べなかったじゃん。だから腹ペコだし、食べれる、余裕で。…誰かが作ってくれた料理を家で食べるの、…いつぶりだろう。」

 きっと何気なく言った言葉であることには違いない。しかし、その言葉は怜花の心にもチクリと刺さる。自分以外の誰かが作った料理を家で食べるということは、怜花も一体いつからしていないのかわからない。

「…ご飯、今から炊くんですか?」
「炊飯器ない、うち。」
「炊飯器がない!?」
「え、そんなに驚かれること?」
「…自炊はしないだろうなと思ってましたけど、あの、電子レンジはさすがにありますよね。」
「うん。」
「じゃあパックのご飯を買って、チンしてください。さすがにキッシュだけじゃお腹いっぱいにならないだろうし。」
「わかった。…帰るの楽しみなの、初めてかもしんない。」

 二階堂の声が弾んでいて、その素直さにつられて怜花も笑ってしまう。怜花と目が合うと、二階堂はさらに子供みたいににこっと笑った。
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