夜を繋いで君と行く
「うさん臭いというよりは、元気がない、というか…。二階堂さんとの電話が初めてなので、なんか声色が違って聞こえているのかもしれません。」
『あー…家にいるときってテンション低くて。怜花ちゃんのご飯食べてるときは夢中で食べてたから楽しかったんだけど、今食べ終わっちゃって、普通のテンションに戻ってるから低めだったかも。ごめん、暗い感じで。でも、美味しかったのは本当だから。』
「美味しかったからわざわざ電話を?」
『うん。美味しいってすぐ言いたくなった。…ほんと、美味しかった。』

 間があるのが、二階堂らしくないのだ。いつもは間髪入れずにポンポンと会話のキャッチボールが続く。それなのに、今はそうじゃない。それに普通、家というものはリラックスできる場所なのではないだろうか。仕事やしがらみから解放されて、誰にも邪魔されない安全地帯。家族と暮らしていた時に安全地帯だと思ったことはないが、一人暮らしになった今、怜花にとって家とは安全地帯だ。

「ご迷惑じゃないのなら、送ってくださる代わりにちょっとしたご飯のお供を今度から渡します。」
『大変じゃないの?』
「自分のお弁当に詰めたり、残ったものは朝や夕飯に食べたりして消費しますから大丈夫です。いつもより気持ち多めに作るってだけなので。」
『…すごいね、なんか。地に足つけてちゃんと生活してる。』
「全部外食にできる財力がないとも言えますよ。財力で外注できるなら、それだって充分すごいです。」
『…そういう考え方もあるかぁ。柔軟だよね、怜花ちゃんって。』
「そうですか?というか、このお礼の電話はどこで終わらせたら良いですか?明日もお仕事ですよね?」
『怜花ちゃんが質問ラッシュってちょっと面白い。』

 電話越しにかすかだが、笑っている声が聞こえた。

「…もう切っていいですか?二階堂さんの仕事に支障出たら怖いので。」
『そっか、もうこんな時間。あのさ。』
「はい。」
『また、電話してもいい?』
「…全部に出れるかわかりませんが、それでもいいなら。」
『うん。…じゃあ、また電話する。今日は色々ありがとう。』
「こちらこそ、今日も全て奢っていただいて申し訳ない限りです。せめてもの償いです。」
『怜花ちゃんのご飯はお金払って買えるものじゃないじゃん。…だから貴重。ってだめだなぁ、ぽろぽろ話しちゃう。ごめん、休んで。』
「…おやすみなさい。」
『うん、おやすみ。』

 切ってしまっていいのだろうか、という躊躇いが少しだけ生じてしまった。しかし怜花はそっと耳からスマートフォンを離し、通話を切った。
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