夜を繋いで君と行く
「ん?どした?」

 怜花がじっと見つめていたことに気付いた二階堂が、怜花に視線を向けた。車内というのは絶妙な距離だ。手を繋いでいるときよりも遠いけれど、顔だけでいえば近い気もする。

「あ、いえ。やりすぎてないならいいんです。時々ちょっと、やりすぎかなって思うときもあるので。」
「ご飯とか作ってくれてること?」

 怜花は頷いた。少しだけ右上を見上げると、優しく柔らかく微笑む二階堂の視線にぶつかった。

「…まぁやりすぎっちゃやりすぎだから、義務感で頑張んなくていいよ?ただ俺が怜花ちゃんのご飯食べれて嬉しーってだけだからさ。ってことで、とりあえず出発するけど、道案内はお願いしていい感じ?」
「は、はい!といってもすぐですけどね。このまま真っ直ぐで大丈夫です。」
「オッケー。」

 車はほとんど音を立てずに静かに走り出す。少しだけ怜花の右半身に緊張が走る。自分と相手しかいない密室というものはやはり苦手で、変な空気にしたくはないのに上手く言葉が出てこない。

「疲れてる?」
「…すみません。車に乗るっていうのが久しぶりで…。」
「緊張した?」
「…すみません。」
「車の中は近くて緊張するよね、ごめん。さすがに俺も車の大きさを急には変えらんないわ。」
「そんなこと、要求しません!」
「うん。…まぁ、緊張しないでって言ってもいきなりそれは無理だろうからさ。緊張させてること自体に申し訳なさはあるけど、別に緊張したままでもいいし、広いところに行ったら適度に距離取ってくれていいからね。車の中は、ちょっとだけ我慢して。」

 また言わせてしまう。自分をフォローするための言葉を。二階堂のことをその辺の男と同様に疑っているわけではないのに、それを伝えないから二階堂に余計なフォローを入れさせる。

(…嫌な女、我ながら。)

 二階堂が笑うとつられて笑ってしまうのに、二階堂に静かに微笑みかけられると自分の狡さや弱さが苦しくて、逃げ出したくなる時もある。噛み合わないのに消えてはくれない感情に蓋をしたくて怜花は、二階堂には見えない左手だけをきゅっと握った。
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