夜を繋いで君と行く
 二階堂が決めたと噂の炊飯器を見つける。黒いボディが白いキッチンの中にぽつりと立っていて異様だ。しかし中を開けると、釜は相当しっかりしているもののようだった。冷蔵庫を開け、買ってきたものを片付けつつ、米も冷蔵庫にしまうようにと怜花が忠告した通り、二階堂は米を買ってきた袋のまま突っ込んでいた。

(…まぁ、冷蔵庫に入れてただけで合格点かな。ジップロック持ってきて正解。)

 怜花は一度キッチンからリビングに戻った。カバンの中を漁って、多めに持ってきていた大きめのジップロックを持って立ち上がり振り返った先に、スウェット姿の二階堂が立っていた。

「え、えー!エプロン!なに、可愛いじゃん!えっ、いつもエプロンして料理してんの?」
「は、はぁ!?いつもはエプロンなんかしませんけど、今日は何かが飛んでもすぐ洗えるわけじゃないから持ってきただけで!」

 二階堂が近付いてくるが、ほどほどの位置で立ち止まった。そして怜花をまじまじと見る。その視線に耐えられなくなった怜花はずかずかと歩き出す。

「うわ、何?なんで大股で歩くの?」
「二階堂さんが意味わからないこと言うからです!」

 怜花のあとをのんびりついてきた二階堂もキッチンに立つ。怜花は冷蔵庫から白米の入っていた袋を出して、ジップロックに移し替える。

「ん?なんで袋替えるの?」
「袋の小さな穴から空気や湿気とかが入ってしまうのを防ぐためです。密閉容器はさすがにないでしょうから、とりあえず代替品としてジップロックです。えっと、二階堂さんは休んでていいですよ。キッチンは色々勝手に触らせてもらいますけど。」
「それは全然かまわないよ。あ、ほらこれ、一通り用意したよ。」

 食器棚に、なぜか鍋が突っ込んである。食器棚には本当に最低限の食器しかなかった。カレーを盛ることができそうな大きめの皿が2枚に、グラスが3つ。それらとは違う段にティファールの取っ手が取れるタイプのフライパン、鍋セットが鎮座している。

「…あの、食器はこれだけ…?」
「うわ、そうじゃん!ごめん、鍋とかフライパンとかは必要だと思って買ったけど、もしかして色々足りない?」
「いえ、大丈夫です。菜箸とかおたまとか木べらとかはさっきダイソーで買いました。二階堂さんが入れたい野菜選んでる間に。」
「いつの間に!?」

 多分ないだろうなと思ったものはおおよそあっていたようだ。最悪、怜花が持ってきたタッパーなどに入れて食べることになるかもしれないが、それはそれだなと割り切って怜花は腕をまくった。
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