夜を繋いで君と行く
* * *

「よーし、じゃあ盛大に揉めよう。」
「…揉めるのに前向きなんですね。まぁいいですけど。」

 二階堂はソファに座って、髪をタオルで乱雑に拭きながら怜花の方を見た。髪が濡れていると印象がいつもと違って、男なんだなという空気が出る。ただ、それにひるんでいる場合ではないのだ。

「俺はソファで寝ます。有言実行。怜花ちゃんと適切な距離を取り、怜花ちゃんが安心して眠れる夜を間違いなく提供します。」
「…あの、なんでそんな選挙みたいな…。」
「え、だってこれは説得し合うわけで、より強い主張と実現力がある方に軍配上がる感じでしょ?」
「…そういうことですか。わかりました。ただの客人、しかも普段は余計な送迎をさせていて、厄介になっている側の人間が家主を差し置いて、家主よりも良い環境で寝ることは望ましくありません。そして、客人もそれを望んでいます。よって客人である私がソファで寝ることが妥当であると考えます。」
「俺よりも喋るじゃん。ていうか、そんなに饒舌に喋るんだ?」
「主張しなさいと言われたら主張しますよ。曲げられませんから。」

 視線がぶつかり合う。気まずくなると先に逸らすのは怜花の方だが、今は逸らしてしまったら確実に負けであるため、怜花は見つめ返した。

「…んー…じゃあさ、結局なんだけど。」
「はい。」
「二人とも折れたくないわけじゃん。」
「はい、絶対に。」
「俺は怜花ちゃんにベッドであったまって寝てほしいわけ。で、怜花ちゃんも俺にいつも通りベッドで寝てほしい。」
「はい、相違ありません。」
「…ってなるとさ、二人でベッドで寝るしかないってことになるけど、それでもいいの?」
「…そう、ですよね…。」

 威勢のよさがしゅるしゅるとしぼんだ。まとめるとそういうことになる。当たり前の着地点だ。

「…手は出さないよ、触らない。当たり前のことだから、そこは本当に安心して。信じられないかもしれないけど、それは行動で証明するしかないってわかってるから、今は信じてって言うしかできないんだけどさ。俺がソファで寝ることに対して、怜花ちゃんのほうに罪悪感があってそこを折れないなら、俺も怜花ちゃんにベッドで寝てほしいってのを折れないし。折衷案は2人ともベッドになるけど、それは普通に怜花ちゃんにとって怖いじゃん。」
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