夜を繋いで君と行く
「里依に泣きつかれたというか、1人じゃ心細いって言うからついてきただけです。」
「そっか。じゃあ独り身同士、仲良くしてくれる?」

 多分、この人はそういう気を遣って自分をあの場から離した。何となくそう思っていたから、怜花は静かに頷いた。

「…まぁ、いいですよ。私は里依みたいに声優フィルター、強くないし、そういう感じでよければ。」
「全然いいよ。俺は三澄みたいに誠実じゃないし真面目でもないから、彼女みたいに強い矜持があったら俺はそれを剥がせない。」
「…本当に誠実じゃない人は、自分を誠実じゃないなんて言わないですよ。」

 思わず反射のように返してしまった。居酒屋で話していた時とはトーンも態度も全然違うが、それで驚かれたとしても仕方がない。今日は里依が安心して一日を過ごせるようにと思ってついてきただけなのだ。里依がいる前なら適当に上手く声優にも奥さんたちにも接するつもりでいるが、里依の目がなくて二階堂だけならそこまで気を遣ってモードをオンにする気にもなれなかった。

「結構言うね、怜花ちゃん。」
「前に会った時の居酒屋みたいに、里依と三澄さんを盛り上げる必要もないし、今日は里依のためだけに来たので思ったことが正直に出ちゃいました。もっとオブラートに包んだ方が良ければそうします。」
「あーいや、全然。ただ意外だったから驚いただけ。」
「意外?」

 怜花が少し見上げると、二階堂は頷いた。

「空気が読める、ノリのいい人なんだーって勝手に思ってたけど、居酒屋でのあの感じってわざとああしてたってことなんだ?」
「わざと…までは言いすぎですけど、でもいつもの私よりも数段テンション上げてました。ぐいぐい押してあげないと、里依は逃げちゃってたと思うし。」
「それもそっか。あ、せっかくだからさ、色々訊いてもいい?俺今日、空気悪くしちゃまずいなって思って来たけど、実際みんな彼女たちと過ごしたい部分もあるだろうからさ、付き合ってくれると助かるんだけど。」

 声優は時間帯も不規則で、忙しい仕事だ。忙しいことは良いことだろうが、売れっ子具合を考えると妻や彼女といえど、一緒に過ごす時間をなかなか取れないということは想像に難くない。

「何でも答えられるわけじゃないですけど、それでもいいなら。」

 怜花のつっけんどんな態度に物怖じすることもなく、二階堂は『ありがと』と呟いた。
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