夜を繋いで君と行く
 他愛もない話をしながら10分ほど歩き、目的地に着いた。二階堂は水とウーロン茶を2本入れて、怜花は里依の好きそうなフルーツティーのボトルと、同じメーカーで味が違うものを自分用にも1本入れた。特に連絡はなかったので、食材は追加しなかった。あっという間に買い出しは終わり、帰路につく。

「怜花ちゃんはさ、三澄たちみたいな恋とか愛に憧れる?」

 唐突な質問に、怜花は一瞬戸惑った。いきなり恋愛の話がしたいのか、まだ相手の出方がよくわからない以上、何を考えているのか読むのは難しそうだと思い、質問の答えを考えるべく頭を捻る。

「…美しいな、と思います。2人ともまっすぐで優しくて、綺麗。でも私は…そうですね、私はいいかな、恋とか愛とかそういうものは。」
「どうして?」

 間髪入れずに戻ってきた返答に、怜花は頭の中で組み立てていた言葉をそのまま口にした。嘘はついていないけれど、核心には迫らせないように濁しながら。

「美しいものに惹かれても、美しいものが手に入るわけじゃないって、知ってるからって感じですかね。」
「それは失恋ってこと?」

 頭の回転が早いのか、ただ失礼なのかはわからないがとにかく返しが早すぎる。怜花はため息をついて、二階堂を見つめた。

「さっきの言葉を返すようですけど、意外とずけずけきますね、二階堂さん。少しは三澄さんの謙虚さとか見習ったらどうです?」
「怜花ちゃん、三澄みたいにゆっくり丁寧に向き合われたら逃げるタイプじゃない?そもそも、男を信用してないでしょ?」

 背筋に緊張が走った。なぜそういうタイプだと思われてしまったのだろう。そういう自分は出していないし、数えるほどしかしていない会話の中でそこまで掴まれるほど本心をさらけ出したわけでもない。

「…どうしてそう思ったんです?」
「最初の『誠実』の話と、恋愛はもういいかなって話を総合して。だってはっきりとした美人って感じの見た目で絶対モテるのに。恋愛と距離を置きたいっていう怜花ちゃんの意思とは関係なく、周りが怜花ちゃんのことを放っておかないでしょ?だとしたら、恋や愛が不要なのは、男が嫌いだからかなって。」

 この人はおそらく、他人の話からの情報を読み込むのが異常に早い。たった数十分過ごしただけで、このアンサーを導き出してしまう人に、怜花は生まれて初めて出会った。
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