大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで
裏社会のトップは、何かと狙われやすい。
そのたびに処理をしてきたが、あの日。
屋敷に戻ってすぐ、隣国の諜報員が上がり込んでいた。暗殺というには、あまりにも派手な服装で最初は娼婦かと思った。
こっちは久し振りに妻に会って癒されたいというのに、腹立たしかったので即行で殺そうと近づいたのだが、運悪く妻が部屋を訪れてしまった。
「愛する奥様に気付かれるかもしれないわよ」
「アレは気付かないさ。付き合ってから、ずっと気付いていないのだから」
裏家業も素も全部隠してここまで来たんだ。
この先も隠し通して──。
それがいけなかった。
俺が彼女に色々隠していたことが、ショックだったのだろう。妻は俺の姿を認識できなくなってしまった。いや、今思えば浮気を疑われた可能性がある。
幸いにも声は聞こえているのでやりとりはできた。これを機に一緒の時間を増やして、自分の素と仕事のことを打ち明けよう。
明日こそ。
明後日には、絶対に。
ようやく決心が付いて打ち明けようとしたが、この時の妻はもうどうしようもないくらいに傷ついて、苦しんで、寂しかった感情が心を蝕んでいた。
ずっと笑顔で支えてくれて、甘えていたツケがきたのだ。彼女は俺なんかと違う、強くて一人でも大丈夫だと思い込んでいた。本当はとても繊細で寂しがり屋なのことを俺は知っていたのに……。頼ろうとしてくれないんじゃない、頼ろうと手を伸ばしていたのを、俺が気付かないうちに振り払っていただけ。
シャルの話を聞いているだけで、何を望んでいるのか、もっとコミュニケーションを取るべきだった。彼女が王都に戻ったと聞き、そんな当たり前のことに遅まきながら気付いた。
それと同時に、こんな俺が彼女の夫でよかったのだろうか。彼女を追い詰めてまた元に戻ろうなんて、都合がいい。
別れるとしても、彼女の意向を聞こうと王都に向かって──。
そう俺はまたすぐに、先送りにした。その結果、最悪の未来を引き寄せることとなる。