大好きな旦那様が見えなくなってから、本当の夫婦になるまで
(シャルを不幸にする連中を、どうにか一掃できないかしら)
怒りと殺意がない交ぜになって、手にしていた扇子をたたき割りそうになった。普段の私なら既に激高しているけれど、今は王妃として粗相は許されない。「ふう」と悩ましげな吐息を漏らして、落ち着かせる。
シャルは昔からあの冷血漢が好きで、ずっと追いかけて、気遣って献身的にあの男だけを見ていた。あの男を選ぶぐらいなら、ルディーの方がまだマシだと何度思ったことか。
だからあの二人が恋仲になり結婚する時は「シャルの片思いが実った」と密かに嬉し泣きしたほどだ。シャルは私とアイリスの袋小路だった運命を変えた命の恩人でもある。
そんな親友が使い潰される導具扱いされるなんて、許せるはずがない。何よりシャルを幸せにしなかったら、全権力を以て公爵を潰してやる。怒りに燃える私の手の甲に触れたのは、アルバート様だった。
「ああ、最後に一つ。元の世界での名前はなんて言うのかしら?」
「え、あ……サクラです」
「名字は?」
「ありません。……その家が貧乏でしたので」
「そう、ご両親はいたの? 住んでいたところは?」
「はい。住んでいたところは……地名は、その」
「では住民届は?」
「たぶん、出しています」
「そう。もういいわよ」
エウレカを退出させた。
侍女たちを下げてから、私は盛大なため息を吐く。国王と王妃の仮面を外した瞬間、私たちは溜息を漏らし、体が弛緩する。どっと疲れが推し寄せ来た感覚だ。
まったくどう考えても、ニセモノじゃない。


