片思い7年目
 翌日、さっそく千颯から旅行のプランが送られてきた。添付されたリンクは、私が高校生の頃から行きたいと言っている旅館のホームページだった。富士山の見える、ちょっといい旅館。大学生の頃、バイト代では厳しいと見送ったのが懐かしい。

 嬉しいのは本心だが、どう返事をしたものかと頭を抱えてしまう。友達とはいえ、自分に好意を寄せてくる相手と旅行なんて行っていいのだろうか。旅行をOKするということは、つまりは友達以上の関係を持つことを承諾することなのだろうか。

「こんなの、全部初めてで分かんないよ」

 私の恋愛経験は極めて少ない。中学生の頃に両思いだった男の子はいたが、スキンシップは手を繋ぐ程度の健全なお付き合いだった。恋人というよりも友達の延長線でしかない。高校に入って優太に片思いを始めてからは誰とも付き合ったりはしていない。

 対して、千颯は恋愛経験豊富だ。優太と時を同じくして大阪からこちらに引っ越してきた彼は、アイドルのように整った容姿で女子たちを魅了していった。私が知る限りでは千颯は彼女が絶えることはなかったと思う。おまけに関西で培ったノリのよさも相まって、彼女だけではなく男女問わず友達もたくさんいるようだった。
 優太がラブラドール・レトリーバーなら、千颯は三毛猫といったところか。私は断然、犬派なのだ。

 千颯と優太はバドミントン部でペアを組んでいたこともあり特段仲が良かった。千颯は「優太はセンスの塊や!」と憧憬を込めた瞳で見つめ、尊敬してるようだった。優太のプレーの素晴らしさを私に熱弁してきたことは少なくない。
 私も自然と仲良くはなったが、恋愛感情を抱いたことはない。それは、千颯だからというわけではない。私は、本当に優太ばかりだったのだ。

「なんて返そう」

 返信に悩みながら昨日の千颯の様子を思い出す。あの言葉は本気なのか。いつものようにスマホを触って、お互い何となく優太からの報告を察していた。それでも、ファミレスで優太達を待っている間、そんな雰囲気は一切なかった。

「あ、まって。あいつ彼女いるじゃん」

 トイレから戻った時、千颯のスマホ画面に女の子とのチャットのやり取りが見えた。「記念日どこか行く?」という内容に、千颯は深く考え込んでいた。私は会ったことはないけれど、千颯にも大学時代から付き合っている彼女がいる。
 口説くような素振りは、落ち込む私を揶揄っていたのだろう。そもそも、女友達も多い彼のことだから、こんな励まし方はお手のものなのかもしれない。気づいて心がスッと軽くなると同時に、自分の恋愛に対する幼さを痛感した。

 私が「大丈夫だよ」と返信すると、「じゃあ予約取るわ」と楽しそうに踊る猫のスタンプが添えられて返信がきた。

< 5 / 13 >

この作品をシェア

pagetop